物の価値ではなくお金の価値が変動している

物価と金融、一見あまり関係なくも思えますが、実は金融にとって物価は最も基本的な要素のひとつです。これはお金の価値を示すのが物価であるからです。

私たちは「物価が上がった、下がった」、「物の値段が高くなった、安くなった」といいますが、よく考えてみると物の価値は変わっていません。ボールペン1本は安くても高くてもボールペン1本の価値だし、ノート1冊は100円でも110円してもノート1冊です。

実は変わっているのは、お金の価値の方といえます。先月100円で買えたものが、今月は110円出さないと買えないということは、お金の価値が約9%下がったことを示しています。これが、物価が変動するということの意味です。

物価の上下は金利にも影響する

物価は、金利とも深い関係があります。たとえば、金利1%で銀行から1万円を借り、1万円のものを買ったとしましょう。

1年後には1%の利子が付いて、借金は1100円になっています。ところで、同じ1年間で物価が1%上がっていたらどうでしょうか。1万円で買ったものは、いまでは1100円の価値があることになるのでしょうか。

この場合、金利は実質的に0%になっています。このように、名目的な金利=「名目金利」から物価の上昇率を引いた金利が「実質金利」です。物価が上がるほど、実質金利は低くなります。

ということは、物価が下がるほど、実質金利は高くなるということです。同じ例で物価が1%下がった場合を考えてみましよう。1年前に1万円で買ったものは、いまでは1%安く買えるので、9,900円の価値ということになります。一方、借金は変わらず1100円に増えていますから、その差は200円、実質金利は2%にもなるのです。

インフレとデフレ

お金の価値が下がり続ける(物価が上がり続ける)のが「インフレーション(インフレ)」です。インフレは通常、経済が好況のときに起こりやすくなります。「インフレではお金の価値が下がるので、借金は実質的な目減りです」というといいことに聞こえますが、預貯金なども要するに貸したお金なので、これも目減りしてしまいます。

そこで、企業も家計も預貯金を避けるようになり、全体として貯蓄の残高が減る傾向になるのがー般的です。

反対に物価が下がり続けて、お金の価値が上がり続けると「デフレーション(デフレ)」になります。デフレは、不況のときに起きやすいものです。

デフレでは、お金の価値が上がるー借金が実質的に増えるうえ、企業は商品の価格が下がるので、売上や利益が減ります。借金の返済がより重くのしかかるわけです。

それを避けて、借金をしてまで設備投資などを行なうことを控えると、今度は企業の活動が収縮してしまいます。経済全体で需要はますます落ち込み、結果としてデフレがさらに進行するのです。これをデフレの悪循環、「デフレスパイラル」といいます。そうならないよう「物価の安定」を最も重要な目的に掲げ、「物価の番人」とも呼ばれるのが中央銀行=日本銀行です。

金利が低いと株価が上がり景気がよくなる

株価は、金融にとってどんな意味をもっているでしようか。まず金利との関係でいうと一般的に金利が下がれば株価が上がり、金利が上がれば株価が下がるという傾向があります。

なぜかというと、金利が高ければ預貯金でもそれなりの利息が得られるからです。わざわざリスクが高い株式投資にお金を回すことはない、と考える人が増え、株価は低迷するのです。

反対に金利が低いと、より高いリターンを求める人のお金が株式市場に流れ、その結果、株価は上がります。

このような株価と金利の関係は、金利と景気の関係からも説明がつくでしょう。金利が低いと景気がよくなるので、企業の業績も上がります。当然、株価も上がるわけです。金利が高いと景気は冷え込み、企業の業績も下がって株価は低迷します。

株価は「景気の鏡」であり、景気に先行して動く

一方で、景気がからむと株価と金利の関係は少し複雜になります。たとえば、景気の拡大が続いている局面では、金利が上がっても株価は下がらず、上昇を続けるのです。逆に、景気の後退が続いている時期には、金利が下がっても株価が上がらず、下落を続けます。

要するに株式市場は、金利の上下がどれだけ景気に影響を与えるか、自ら判断して動いているわけです。一般に、株価は景気より6か月から9か月、先行して動くといわれます。このことから、株価は「景気の鏡」とも呼ばれるのです。また株価が景気の変動を増幅する点も見逃せません。

株価が上がると、景気先行き期待などから企業の設備投資も活発になります。投資家も株の値上が益で資産が増えるので、消費を活発にするでしょう。設備投資と消費が増えれば、景気はますますよくなります。もちろん、株価が下がると企業の設備投資や消費が減り、この逆の現象が起きます。