ファイナンスとしてのICO論

ファイナンスとしてのICO論

ビットコインの登場と共に金融分野に限らず、医療、政治法律、広告、流通、製造、情報など幅広い産業でブロックチェーンが注目されるようになりました。

一方で、仮想通貨ブームの裏では仮想通貨の価格の乱高下や詐欺事件、ハッキング事件なども発生し、日々様々な企業が参入と撤退を繰り返しています。

こうした背景から「仮想通貨」や「ビットコイン」というと怪しいイメージを持つ人も少なくありません。その「怪しい」の代表格が「ICO」であり、様々な企業がICOを試み、また多くの投資家が損失を被ってしまいました。

現状は、政府や金融庁もこうしたトラブルを重く受け止め、様々な対応や規制を進めていますが、詐欺やハッキングに対する摘発はあまり進んでいません。

今回はファイナンスの新しいテクノロジーとして、極めて応用性が高くインパクトが大きいものの、悪用もされやすい「ICO」が革新的なファイナンスの手段になりうるか、考えてみたいと思います。

 
ICOは厳密には仮想通貨取引所において売買の対象として、取り扱われることを指しますが、インターネットで告知、販売されるクラウドセールなどその前段階を指す場合もあります。
 
言葉の由来は株式取引所に株式が公開(上場)されることを意味するIPOInitial Public offering)に準えてICOと呼ばれるようになったと言われています。

発行体は、主にインターネットなどデジタル空間上で事業計画や資金使徒、投資者のメリットなどを示した上で、賛同し投資を行なった人にその対価としてコイン(トークン)を提供します。

ICOを行う発行者側のメリット

インターネット上で募集が行われ、投資の払い込みは仮想通貨によって行われることが一般的です。①これまでの株式公開やファンド出資の募集に比べて、簡易かつ迅速な手続きで資金調達ができる点(ベンチャー企業など体制上大組織でなくとも実行できること)、②世界中の投資家に対して募集を行えるためプロジェクトの初期段階であっても、多大規模な資金調達が可能な点(ただし、多くの地域で、一定の規制や注意喚起、禁止が行われています)、③電子データの販売であるため調達した場合でも基本的に、議決権や負債とは紐づかない点、④既存株主の株式が希薄化しない点、⑤世界中の多種多様な人にトークンを販売できる点、⑥トークンの性質によっては、購入者に対して義務や責任を負わない点などが挙げられます。

ICOの分類

ICOトークンの発行、販売は具体的に以下のケースが考えられます。

①発行者からの直接的な見返りを求めていないケース
②発行者からの物品・サービス等の供与を見返りとして求めるケース
 ③事業収益の分配などキャッシュに相当する経済的価値の受け取りを期待するケース

※ICOに関する「権利」は、通常、発行者が公表するホワイトペーパーに記載され、トークン保有者は契約に基づく債権的権利を有することとなるとされます。ただし、根拠法(株式でいえば会社法)はなく、また、権利内容が曖昧な場合も多いとの指摘もあります。

ICOトークンの分類

ICOトークンは基本的に3種類に分類されています。スイス金融当局が公表した資料に端を発しており、今では以下の区分が一般的な認識とされています。ただし、ハイブリッド型も多数存在するため、厳密な区切りはできません。

ICO トークン 分類

ICOのプロセス

ICOのプロセスとして、販売フェーズでは「プロジェクト計画の策定」、「ICOの周知」、「トークンの販売」に分類されます。またトークンの販売後は「サービスローンチ」、「仮想通貨取引所での上場」などが想定されます。

ただし、これらは必ず実現されるわけではなく、多く場合、発行されたトークンは上場にいたらずプロジェクト自体停止もしくは撤退するケースが散見されます。

ICO プロセス

ICOに関する各国の規制

ICO 規制
ICO 規制

ICOの今後のあり方、将来性の考察

現状、ICOプロジェクトに関しては革新的な資金調達方法として、多くの企業や投資家が注目をしている一方、価格下落による多額の損失を被ったり、詐欺的な被害を受けている投資家が散見されます。

こうした状況の中で、金融当局では「ICOとして一括りに規制するのではなく、セキュリティトークンに限定して規制を行うべきではないか」「日本だけでICO規制を行っても拠点が海外に移るだけで有効性がないため、国際的に行うべき」といった意見や「もはやICOは禁止にするべき」といった議論がなされています。

こうした混沌とした状況で、仮想通貨が金融商品に位置付けられ、規制が強化される中、ICOをとりまく経済システムがどのように形成されて行くのかを考察したいと思います。

考察:「第二種金融商品取引業」「適格機関投資家等特例業務」、「クラウドファンディング」がキーワードになるのではないか

そもそも「投資家保護」とは何か

現状、ICO規制に関する議論のほとんどが「投資家保護」を占めています。ICOを語るとき、「投資家保護」は誰もが口にしていますが、そもそも「投資家保護」は何を意味するのでしょうか。

「騙されて架空のプロジェクトに投資をしてしまった」「プロジェクトの実態はあり、上場を果たしたものの、価値が1/100になってしまった」「プロジェクトも上場後の時価も順調だったがトークン設計(もしくは取引所のセキュリティ管理)が不完全で盗まれてしまった」、、、これらをどこまで保護することを目指して「投資家保護」としているのか調べてみましたが、明確な回答を得ることはできませんでした。

例えば、証券会社において、「投資家保護」とは一般的に「顧客資産の分別管理」や「リスクに関する説明義務の全う」を指しますが、仮想通貨ではこれらを果たしたとしても、その性質ゆえに投資家は多くのリスクに晒され、フェアな状況に置かれることは非常に限定的になります。

こうした仮想通貨の複雑さ、曖昧さは詐欺をはたらく人にとっては詐欺事件としての立件を回避する上で、非常に便利に機能してしまっています。一方で、国内で規制を過度に強化したり、禁止にしたところで、規制の緩やかな国に拠点が移っていくだけでしょう。もしくは、有望なプロジェクトまでを潰してしまうことになりかねません。

適格機関投資家等特例業務を応用することで、ICO産業の育成と投資家の保護が両立できるのではないか

こうした状況のなかで、筆者は説明義務の厳格化と共に適格機関投資家等特例業務の応用が有効ではないか、また実際にそうなっていくのではないかと考えています。

適格機関投資家等特例業務とは、金融商品取引法において、ファンドの販売や勧誘を行う業者は、当局への登録(第二種金融商品取引業の登録となり、登録者の負担は大きいです)が必要ですが、プロの投資家として指定されている適格機関投資家向けにファンドの販売や勧誘をする場合は、適格機関投資家等特例業務として登録義務は課せられず、届出を提出するだけで済む、という制度に基づいた業務のことです。

簡単に言うと、「プロ投資家なら、登録や維持に負担の大きい第二種金融商品取引業を取らなくてもファンドをやってもいい」という特例ルールを指します。

ICOに適格機関投資家等特例業務を当てはめた場合、「原則、仮想通貨交換業の登録が必要。ただし、プロ投資家が相手であれば、そのライセンスがなくても運営してよい」となります。こうすれば、体制や資金、その他リソースが不足しがちなベンチャー企業でもICOを国内で実施することが可能となります。

仮に完全にプロ投資家に限定してしまえば、(プロ投資家自体が金融庁の一定のスクリーニングを受けているため)アンチマネーロンダリングにも対応することができます。

またクラウドファンディングのように投資家の金額に上限を設定することで、投資家一人当たりの損失リスクを抑えることが可能となります。

さいごに

筆者はベンチャー企業の新規事業開発コンサルティングを依頼されることが多く、そのため仮想通貨業界に関わる様々な方と知り合う機会もあり、詐欺やハッキング被害に遭ってしまった人から相談を受けることもありました。そうした話を聞くと、大変残念な気持ちになりますが、もちろんそれは「仮想通貨」そのものが悪いという訳ではありません。

ICOという仕組みはファイナンスの観点から非常に革新的である一方、訴訟リスクをはじめとして、まさに諸刃の剣であるため、ITや金融業界で働く人にとっては今後も注視していく必要があるでしょう。

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