企業価値、株主価値、事業価値の違いとは

企業価値、株主価値、事業価値の違いとは

「企業価値」「事業価値」「株主価値」の定義

「企業価値」の概念に類似する概念として「株主価値(≒株式時価総額)」と「事業価値」があります。またそれらの混同が散見されています。今回はこれらの違いについて見ていきます。

注意すべき点は、株式譲渡によって株式を売却する場合に対価となる価値は「株主価値(≒株式時価総額)」であることです。「株主価値」は「企業価値」とは異なリます。

これは「会社の価値は債権者と株主で分け合うものだ」と考えるとわかりやすいでしょう。会社全体が100の価値(企業価値=100)だとすると、債権者が20の貸付をしていれば(つまり、対象会社が借入や社債発行を行っていれば)、債権者に帰属する価値は20であり、残額の80が株主にとっての価値になります。

買収者が許容できる企業価値が100であるという場合に、対象会社に優先株主等が存在すれば、債権者に帰属する価値を控除した80の価値を優先株主と普通株主で分け合う形となります。この前提の中で、会社全体の価値である100の価値というのが「企業価値」であり、株主に残る80の価値が「株主価値」となります。

なお、上場会社等の「時価総額」データ等をインターネット等で入手できますが、この場合の「時価総額」は、通常「普通株式の時価総額」を意味します。つまり、優先株式を発行する会社の株主価値を正確に測るには、これに加えて「優先株式の時価総額」も加算しなければいけません。優先株式を上場している会社もー部ありますが、多くの上場会社は普通株式のみ発行しています。もちろん、優先株式も上場していれば市場において時価がつきます。

一方で「事業価値」という概念も重要です。「事業価値」とは、企業価値から会社の非事業資産(余剩資金や短期的取引を目的とした有価証券、遊休資産等)を除いた会社の事業そのものの価値を意味します。

DCF法等による評価を実施する際に、「はじめに」算出される価値です。数式上は、企業価値から非事業資産を控除したものであると定義されますが、実務においては、DCF法で算出された事業価値に非事業資産を加算して企業価値を求める場合が多いでしょう。

DCF法は、企業の事業資産により将来発生するであろうキャッシュフローを割り引いて現在の事業の価値を算出するものですから、算出された価値には非事業資産が含まれていないことになります。以下では日本公認会計士協会の「企業価値評価ガイドライン」における定義を参照して見ます。

事業価値 事業から創出される価値である。会社の静的な価値である純資産価値だけではなく、会社の超過収益力などを示すのれんや貸借対照表に計上されない無形資産、知的財産価値を含めた価値である。
企業価値 事業価値に加えて、事業以外の非事業資産の価値も含めた企業全体の価値である。
株主価値 企業価値から有利子負債の他人資本を差し引いた株主に帰属する価値である。なお、株主価値の算定にあたっては種類株式等の取り扱いや少数株主持分(非支配株主持分)を減算する等の処理が必要となる。

企業価値の算定

企業価値評価においては、まず「事業価値」を算出し、「非事業資産」を加算して「企業価値」を求め、その後「有利子負債等」を控除して「株主価値」を算出するということになります。

M&A、企業価値、事業価値、株主価値

企業は「債権者」と「株主」が提供した資金を基に事業運営をしていきます。それぞれ
の資金拠出者は、当該資金投下に対するリターンを期待して「融資」や「投資」を行いま
す。したがって、「株主」にとっての価値(株主価値)を算出するには、「企業価値」から「債権者」に帰属する権利部分(有利子負債等)を控除する必要があります。

また、「優先株式」等を発行している企業においては、「普通株式にかかる株式価値」を算出する場合、「優先株式」の価値をさらに株主価値全体から控除する必要があります。

それ以外にも、親子関係にある連結グループ等の企業グループを評価する場合で、子会社株式のー部を、親会社以外の株主(少数株主〈非支配株主〉)が保有している場合、連結会計上は「非支配株主持分」として、外部が保有する価値が貸借対照表上に計上され、子会社の価値のー部をグループ外の他者が有していることが表示されます。

親会社が全部権利を有するわけではないとすると、企業全体の価値である「企業価値」は変わりませんが、その親会社の株主が保有する「株主価値」を考えるにあたっては、当該外部流出分である「非支配株主持分」の時価をさらに控除することが必要です。実務上は簡易的に「非支配株主持分」の簿価をそのまま控除して計算するのが通常ですが、厳密には子会社の評価も行ったうえで「非支配株主持分」を時価評価する必要があり、それを控除することで正確な株主価値を求めます。

各価値と企業価値評価の関係

実務的に非常によく用いられるEV/EBITDA倍率を基準とした類似会社比較法(マルチプル法)においては、「事業価値(または企業価値)」が直接的に求められます。EVEBITDA倍率の類似会社平均が5倍であり、対象会社のEVEBITDAが10億円であれば、EV=50億円ということになります。

一方で、PER倍率を基準とした評価においては、「株主価値」が直接的に求められる価値となります。これは、PERという数値指標の分子が株主価値を基準とした株価となるからです。

時価総額は株主価値とほぼ同義ですので、対象会社の当期純利益が5億、PERの類似会社平均が20倍とすると、株主価値=100億円ということになります。

一方、前述のとおり、企業価値評価手法の代表的手法であるDCF法により直接的に算出される価値は事業価値です。このように、企業価値評価手法によって、はじめに求められる「会社の価値」が異なることは重要な論点です。

非事業資産とデットライクアイテム

「事業価値から「企業価値」を求めるには、「非事業資産」を明らかにする必要があります。また「企業価値」から「株主価値」を求めるには、「有利子負債(社債を含む)」だけでなく、有利子負債に類似する負債である「デットライクアイテム」も含めて減算する必要があります。ここでは、この「非事業資産」と「デットライクアイテム」について説明します。

非事業資産とは

「非事業資産」は比較的容易に算定可能です。まず事業運営に必要でない現預金が代表的なものであり、それ以外に事業の用に供していない資産があればこれらの金額を合算します。現預金以外の代表的なものとしては、換金可能な上場有価証券、遊休不動産、確実に返済される貸付金などがあります。

1つの考え方としては、買収者が買収後にすぐに売却(回収・現金化)できる資産であり、かつ事業に何の影響も及ぽさない資産は何かという視点で考えるとわかりやすいでしょう。なお、現預金のうち拘束性預金や担保に供している預金等は「非事業資産」に含めて考えないのが通常です。

また事業運営上の最低限の現金(たとえば売上高の1~2%程度)を「非事業資産」に含めないという考え方が採用される場合もありますが、日本における実務上ではこれらも「非事業資産」に含めて計算していることが多いようです。

デットライクアイテムとは

「企業価値」から「株主価値」を算出する場合、有利子負債の控除に加えて、「デットライクアイテム」も控除します。言い換えると「将来的な支出、損失または収入減少」になうる負債(帳簿に載らないオフバランス負債も含む)がこれに該当します。

具体的には、退職給付債務、リース債務(フアイナンスリースにかかるもの)、資産除去債務、偶発債務等が挙げられます。

なお、「非事業資産」および「デットライクアイテム」は、常に「時価」で算定していきます。簿価2億円の不動産であれば、現在いくらで売却できるかという考え方に立って「非事業資産」に算入すべき金額を算出します。

「非事業資産」と「デットライクアイテム」および「有利子負債」を理解することで、(事業価値」「企業価値」「株主価値」の相互変換が可能になります。

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