様々な訳をもつ”ファイナンス”
「ファイナンス」という言葉は「金融」「財政」「財務」など様々な訳され方をします。これはそれぞれの主語が異なることが大きな理由となっています。
世の中では様々な経路でおカネが流れています。おカネを使って活動するのは、政府・企業・家計の三者です。家計とは簡単に言うと個人のことです。この三者間ではおカネの不足や余剩が起こります。金融はこうした過不足の調整機能を持っています。
これらのおカネの流れに関わることを「ファイナンス」といいます。政府がお力ネに関わる場合には「財政」となります。一方、企業がお力ネに関わる場合には「金融」と呼ばれます。
おカネの過不足を貸し借りなどの形で調整している市場を資本市場といい、ここからおカネを借りたり預かったりして、事業におカネを回していく企業にとっては、このおカネの流れに関わることは「財務」にあたります。
「おカネの流れに関わること」には、いくつかの重要な要素があります。まずはおカネ自体を手に入れなければなりません。これを「資金調達」といいます。どこからどのように調達してくるのか、という問題は非常に重要です。
手に入れたおカネは、何かしらの目的のために用いられます。こちらは。「資金運用」です。企業であれば工場建設のために資金を投じたり、他社を買収するための投資をしたりといったことが考えられます。おカネを、本来の目的である事業に投じるということです。
こうした運用は、やりっぱなしでは困ります。おカネを投じたからには、きちんと見返りを「獲得」しなければなりません。投資をしたからにはきちんと成果をあげようということです。
さらに、獲得した見返りをどのように「配分」するかという問題も出てきます。株主ヘの配当をいくらぐらいにするか、などというのは典型的な配分の問題といえるでしょう。こうしたおカネの「調達」一「運用」一「獲得」一「配分」の流れを、どうしたらうまく取り扱えるのかを考えるのが「ファイナンス」です。
なぜこのようなことを考えなければならないのでしょうか。企業がおカネをうまく取り扱うことを必要とするのは、そのおカネによって事業(ビジネス)を進めていきたいからです。この二つは企業の中で密接に絡み合っています。ファイナンスを忘れたビジネスは成り立ちませんし、その逆もまた然りです。
ファイナンスの種類
投資理論(インベストメントセオリー)
企業が関わるファイナンスには、大きく分けて三つの分野があります。
資本市場における投資家は、株式や債券など様々な金融商品に投資しますが、これらに対してどのようにおカネを投入すると最適な運用となり、目指す見返りが獲得できるのかを考える必要があります。このための体系が投資理論です。
投資にはリスクがつきものですから、リスクを考慮しながらどのようなおカネの運用方法を考えるかがカギになります。たとえば、個々の投資のリスクの影響を小さくするために、それらを組み合わせてーつのポートフォリオを作り、おカネの流れを管理するなどといったことです。
投資理論というと、通常はこのように投資家が証券に対して投資を行う際に用いられることが多く、金融商品の多くは株式や債券などの証券であることから、こうした投資を証券投資と呼ぶこともあります。
ただ、投資理論はこれだけではありません。実は企業財務にも深く関係します。これは企業も投資を行っているからです。企業が行う投資は設備投資など実物資産を対象としたり(実物投資)、事業そのものに投資したり(事業投資)することが多く、また個々の投資の組み合わせ云々というよりは、個別投資の実行や撤退の判断が主な内容となってきます。事業ポートフォリオマネジメントや、他社の株式を買収するM&Aなど、投資家に負けす劣らずの活動を行う企業も増えてきました。
金融工学(ファイナンシャルエンジニアリング)
もうーつの分野は、金融工学と呼ばれる分野です。この分野は、きわめて実務的な色彩の強い分野であり、簡単にいえば工学的手法を駆使して金融商品をどのように作るかがカギとなります。たとえば、リーマンショックの震源地となったのは証券化商品市場でしたが、ここでは通常のローンなど様々な金融商品を束ねて、リスクに対する見返りの異なる新たな金融商品を作り出すことがなされていました。この商品製作に必要な工学が「金融工学」です。
こう言うと、何か世界経済危機の黒幕のように思われるかもしれませんが、一般的な金融商品ではなかなか満たされない投資家の需要に応えるために、今やなくてはならないものとなっています。デリバティブと呼ばれる金融派生商品も、この分野における産物のーつです。