ファイナンスと会計の関係は「原因と結果」

ファイナンスを理解するためには会計に関する基本的な知識が必要であるといわれています。ファイナンスと会計の関係については、ファイナンスが経営戦略の1つであり、会計が経営戦略の「結果」を表した情報だと言えます。

経営戦略の中には、ファイナンスのほか、マーケティング、生産、人材開発やR&Dなどがありますが、ファイナンス以外の経営戦略については、それらを理解するために会計の知識が必要であるといわれることはほとんどありません。いったいなぜでしょうか。

これは、マーケティング、生産、人材開発やR&Dなどの経営戦略がいかに少ない費用で多くの収益を上げ、その結果として利益を獲得できるか、という形でマネジメントするものであり、会計との関係が比較的単純だからといえます。

極論すると、会計に関する詳しい知識なんてなくともマーケティングなどの経営戦略を理解することも立案、実行することもできるわけです。

これに対して、ファイナンスは、企業価値の向上を目的とした経営戦略です。詳細は後述しますが、ファイナンスの世界では企業の実力のことを「企業価値」という言葉で定義します。そして、この企業価値は、将来獲得するキャッシュフローの大きさによって決まります。キャッシュフローは文字通り、企業の事業活動によって生じる「キャッシュの出入り」を意味するわけですが、これは会計情報の1つであるキャッシュフロー計算書(C/F)に表れます。

そして、このキャッシュフロー計算書は貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)をもとに作成されているのです。つまり、ファイナンスは、貸借対照表(B/S)。損益計算書(P/L)およびキャッシュフロー計算書(C/F)から構成される財務3表そのものをマネジメントするための経営戦略です。換言すると、財務3表という会計情報の構造を知らないとファイナンス戦略を理解することも使うこともできないのです。

P/Lはフロー、B/Sはストック

貸借対照表(Balance Sheetの略でB/Sと呼ばれます)と損益計算書(Profit&Loss Statementの略でP/Lと呼ばれます)ですが、両者は密接に関連しています。

B/Sは3つのハコでできています。左のハコは資産、右上は負債、右下は純資産です。資産、負債は、短期のもの(流動)と長期のもの(固定)に分かれます。ある時点(通常は年度末の決算最終日)において、資金をどう調達したか(右側のハコ2つ)とそれをどう運用したかの状況(左側のハコ)を示しています。企業の財務内容を、ある瞬間のスナップショットとして捉えた「ストック」の概念です。

P/Lは1年間における取引活動の結果、どれだけ儲かったか(または損したかを示しており、これは「フロー」の概念ということができます。

例えると、1年間の給与と日々の生活費はP/L、一方で今銀行口座にいくらの貯金と借金があるかがB/Sです。B/Sは、過去何年にも及ぶ企業の取引活動の結果であるP/Lの蓄積にほかなりません。したがって、P/Lは「原因」、B/Sはその「結果」を表しているということもできます。

ここをきちんと理解できているかどうかは、会計やファイナンスの本質的なセンスに直結しています。B/Sが健全な状態(自己資本比率が高い借入金の割合が低い)であるということは、過去の長い期間を経て、毎期少しずつ利益を積み上げてきた結果を表しています。財務状況のよくない会社が、あるー期間だけ多くの利益を計上しても、悪化したB/Sを瞬く間によくすることはできません。B/Sをよくするのは、レンガを1つ1つ積み上げるような作業なのです。

一方で、借入金がゼロならB/Sが超健全で喜ばしいかというと、実はそうではありません。借入金を活用して収益を伸ばす、これがコーポレートファイナンスのミソで、この全体の最適解を求めて実行することがコーポレートファイナンス戦略と言えます。

B/SとP/Lの相互作用

一時的なP/L改善がB/Sをただちに大きく改善するわけではないのと同様に、逆にある期間だけP/Lで大きな損失を計上したからといって、B/Sがたちまち悪化することはありません。

B/Sの内容を短期間のうちに劇的に改善するには、含み益のある資産を売却するか、借入金の返済を免除してもらう(債務免除)、増資に応じてもらう(エクイティファイナンス)など特別な手が必要になります。

P/Lはフロー(原因)、B/Sはストック(結果)。常識のように感じますが、これはファイナンス戦略を考える上でも非常に重要となります。