<はじめに>金融プロフェッショナルを志望する全ての人へ
今回はコラムとして、金融機関就職者&就職希望者向けに証券外務員試験対策を視野に置いた金融商品取引法に関する主要な論点、間違えやすいポイントを中心に整理しました。
筆者はもともと、新卒で国内の証券会社に入社したのですが、大学在学中に証券外務員一種を取ることが会社に義務付けられていました。当時、大学4年生の時に卒業論文や大量の単位(必修含む)など取り組むべきタスクは大量に残されており、並行して取り組んで苦労したことは未だに忘れません。
外務員試験での点数や合否結果は全て、会社に記録され入社後の人事にも影響することがあります。微々たる影響なので、外務員試験結果が悪くても気にする必要はありませんが、実務に活用される内容も豊富に含まれているため、手を抜かずに取り組むべきでしょう。
ちなみに、証券会社には毎年入社式まで合格が間に合わず、試験勉強のために入社オリエンテーションに参加させてもらえない新入社員が若干数います。こうなると人事部からも本格的に目をつけられてしまうリスクが高まるため、気をつけないといけません。
金融プロフェッショナルを志望する人、関心の高い人は実務を理解し、現場で活躍するためにもしっかり身につけましょう。
それでは早速、「金融を学ぶ(証券外務員試験対策を始める)イントロダクションとしての金融商品取引法」について見ていきます。
まずは「証券市場の基礎知識」をざっくり理解しよう
”金融”は2つに大別される
企業や政府などが、銀行をはじめとした金融機関などの第三者を介さずに、株式や債券(証券)を発行、流通して必要な資金を証券市場を通じて直接投資家から調達することを直接金融といいます。一方で、企業や政府が必要な資金を、銀行などの金融機関からの借り入れで調達することを間接金融といいます。
なお、投資家から預かった資金を用いて金融機関が公開市場で金融商品(証券)に投資を行うことを市場型間接金融といいます。
資金提供者(投資家)が直接的にリスクを負って資金を供給(投資)を行うことを直接金融、資金提供者(投資家)が銀行など金融機関を介して、間接的にリスクを負って資金を供給(預金など)を行うことを間接金融というと覚えるとわかりやすいでしょう。
証券マーケットの分類
新規に発行された証券が、発行者(資金調達を行う主体)から直接にあるいは仲介者(証券会社など)を介して投資家に1次的に取得される市場を発行市場(プライマリーマーケット)といいます。すでに発行された証券が投資家間で2次的に売買される市場を流通市場(セカンダリーマーケット)といいます。
証券市場を取り巻く法定組織
証券取引等監視委員会には証券会社による損失保証・補填、投資家による相場操縦やインサイダー取引、発行会社による有価証券報告書の虚偽記載等の証券取引の公正を損なう行為についての強制調査権が付与されています。
金融商品取引法により、自主規制機関としての性格を付与されている団体の1つに日本証券業協会があります。この他に、各証券取引所および投資信託協会等があります。
一方で、証券取引等監視委員会は、金融商品取引業界における自主規制機関ではなく、金融庁に属する公的機関です。また証券保管振替機構(ほふり)とは、有価証券の売買取引や担保取引の決済に伴う証券の受渡しを、証券の授受によらずに一定の機関に設けた口座間の振替によって行う株式会社です。
金融商品取引法の概要を理解しよう
金融商品取引法は金融・資本市場を取り巻く環境の変化に対応し、利用者保護ルールの徹底と利便性の向上、市場機能の確保及び金融・資本市場の国際化への対応を図ることを目的に制定されました。
これは、2007年(平成19年)9月30日に全面施行され、法整備の具体的内容としては、投資性の強い金融商品に対する横断的な投資者保護法制の構築、開示制度の拡充、取引所の自主規制機能の強化、不公正取引等への厳正な対応などが柱となっています。
この法律は、①企業内容等の開示の制度を整備するとともに、②金融商品取引業を行う者を規制し、③金融商品取引所の適切な運営を確保すること等により、④有価証券の発行及び金融商品等の取引等を公正にし、⑤有価証券の流通を円滑にするほか、⑥資本市場の機能の十全な発揮による金融商品等の公正な価格形成等を図り、国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的としています。
一般に金商法は、旧来の「証券取引法」の題名を改正し、「金融先物取引法」「外国証券業者に関する法律」「有価証券に係る投資顧問業の規制等に関する法律」「抵当証券業の規制等に関する法律」の4法律を廃止して統合し、さらに全89法律を改正して、その一部を統合して作られています。また、本法律では、規制対象となる業者(証券会社、金融先物取引業者、商品投資販売業者、信託受益権販売業者、投資顧問業者、投資信託委託業者など)の法律上の名称を「金融商品取引業者」に、取引所(証券取引所、金融先物取引所)の法律上の名称を「金融商品取引所」に、それぞれ改めています。
証券取引法改正のポイント
・投資性のある多様な金融商品をすき間なく対象にしている。
・金融商品を取り扱う業者は全て金融商品取引業と位置づけられ、内閣総理大臣に申請・登録した業者でないと業務はできない。
・販売や勧誘の場面を中心に業者の行為ルールが強化されている(広告の場面での規制、販売・勧誘・契約の場面での規制)。
・対象者がプロかアマかによって保護ルールに差がある。
金融商品取引法は、国民経済の健全な発展および投資者の保護に資することを目的として金融商品取引業を規制していますが、これを4種類に分類しています。具体的には「第一種金融商品取引業」、「第二種金融商品取引業」、「投資助言・代理業」、「投資運用業」の4つです。なお、それ以外の業務は付随業務、届出業務、承認業務の3つに分類されています。
証券会社の4つの業務
有価証券の売買の取次ぎ業務(ブローカー業務)とは、投資家から受けた株式などの売買注文を、流通市場に取り次ぐ業務です。取り次いだ際に委託手数料を受け取ります。別の言い方として委託売買業務とも言います。
なお、金融商品取引契約を締結しようとするときは、あらかじめ、契約締結前交付書面を顧客に交付しなければなりません。金融商品取引所に上場されている有価証券の売買などについては、過去1年以内に一定の書面を交付している場合は、契約締結前の書面交付義務が適用除外されます。
有価証券の自己売買業務(ディーラー業務)とは、証券会社等自己運用部門をもっている企業の自己勘定で、証券を売買する業務です。
有価証券の引受業務(
有価証券の募集・売り出し業務(セイリング業務)とは、新規上場(IPO)や公募増資(PO)などの際に株式を発行している企業から委託を受け、投資家を募集・販売する業務です。新規の有価証券の場合は「募集」、発行済みの有価証券の場合は「売り出し」と呼びます。証券会社は売れ残っても引き取らないため、リスクを負うことはありません。
アンダーライター業務とセイリング業務の違い
募集・売り出し業務(セイリング業務)は、引受業務(アンダーライター業務)と形態が似ています。引受業務も企業が発行している株式や債券を証券会社が買い取り、投資家に販売する業務です。
しかしこの2つは、証券会社が負うリスクが異なります。引受業務は売れ残った有価証券を引き取らなければならないため、売れなかった場合は証券会社に損失が生じます。一方、売り出し業務の場合は売れ残ったとしても引き取る必要はなく、売れ残ったものは返品することができます。
引受業務は、ひとつの証券会社ですべてを請け負うこともありますが、発行金額が大きい場合などは、募集・売り出し業務を請け負ってくれる証券会社を探します。引受会社は、募集・売り出し業務を他社に委託することでより多くの投資家に有価証券を売却することができます。一方、募集・売り出しをする証券会社は売れ残りのリスクを負わずに利益だけを得ることができます。
証券外務員試験において、間違いやすいポイントの整理(免許、登録、承認、届出など)
金融商品取引業ライセンスの全体像
金融商品取引業プレイヤーごとライセンス一覧
・各証券取引所(金融商品取引所)→内閣総理大臣の免許が必要。
Appendix:証券外務員試験で頻出のマクロ経済まとめ
①国内総生産(GDP)=雇用者報酬+営業余剰+固定資本減耗+
②国内純生産(NDP)=国内総生産–固定資本減耗
③国内総支出(GDE)=民間消費+民間投資+政府支出+輸入–
④経常収支=貿易・サービス収支+所得収支+経常移転収支
⑤資本収支=投資収支+その他投資収支
※固定資本減耗とは減価償却費と同義。工場や機械の使用による価
※経常移転収支とは移転取引のうち、資本移転以外の取引により生
各経済統計
・GDP統計→内閣府が四半期ごとに公表。
・景気動向指数→内閣府が毎月公表。
※景気動向指数には新設住宅着工床面積(先行系列)や完全失業率
・企業短期経済観測調査(日銀短観)→日本銀行が四半期ごとに公
・企業物価指数(CGPI)→日本銀行が毎月公表。
・消費者物価指数(CPI)→総務省が毎月公表。
いかがでしたでしょうか。金商法は金融実務にとっても中核を占める内容であるため、証券外務員資格の取得後も定期的な振り返りをするといいかもしれません。
また経営者や財務担当の方で株主総会や決算報告など、企業のIRやコーポレートガバナンスにお困りの方はぜひお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。