リーマンショックがもたらした変革とFintechの関係性とは

リーマンショックがもたらした変革とFintechの関係性とは

今回はfintechにつながる話として金融ビジネスを再構築した歴史に残る事件とそれによる技術及び制度の進歩について基本的な点を絡めてお伝えしよううと思うのでぜひ一読ください。

金融ビジネスの再構築

 

リスクのアンバンドル(分離)の進展

金融の市場化は1970年から2000年代初頭にかけて急激に進み、金融ビジネスもそれに沿って発展していきました。しかしながら、2008年のリーマン·ショックによって、市場化を前提とした金融ビジネスは大きな転換を迫られることになります。まず、金融の市場化やグローバル化が進む中で、リスクの所在が多様化しました。市場取引では価格が変動することから、そのリスクにいかに対応するかが間題となりました。たとえば銀行貸出においては、銀行が管理をしていた信用リスクや流動性リスクは、市場化の際には投資家が直接対処しなければならないリスクへと変化しました。こうしたリスクを管理するために、金融資産の価格付け、最適な資産構成をもたらすポートフォリオ選択といった、リスクを定量的に評価するファイナンス理論が用いられました。ファイナンス理論は1950年代以降発展してきましたが、実務上は膨大なデータ処理が必要であるため、ITの発展が伴った1980年代以降に本格的な活用(金融工学の実用化)が始まりました。金融工学の実用化が進んだ結果、倒産(デフォルト)時に債権価値を担保するCDS (Credit Default Swap)などの、さまざまなデリバティブやレバレッジ商品、証券化商品が作られました。これにより、個々のリスクを切り離して管理できる「リスクのアンバンドル(分離)化」が進みました。ここで利用される証券化とは、ある資産から生じるキャッシュフローを裏付けとした資産担保証券を発行することを指します。銀行は証券化を通じ、保有している流動性の低い貸出債権を実質的に売却しリスクを切り離すことが可能になりました。また、CDSは特定の質産を保有したままで信用リスクのみを分離させ、発行者のデフォルトに対する「保険」の役割を果たします。つまり、CDSを通じて、市場性の低い資産を保有せずに信用リスクのみを取引することが可能になりました。こうしたリスクの分離化は、債権保有者のオフバランス化(財務諸表から資産を除外する)ニーズや投資家のリスクヘッジ(リスク回避)ニーズを満たしました。金融機関はデリバティブを取り入れる一方で、IT を活用し自動的に注文のタイミングや数量を決めて高速で売買を繰り返すプログラム取引などを行い、市場での取引を通じて大きな収益を得るビジネスモデルを作り上げていきました。その一方で、リスクが分離された結果、リスクをモニタリングするインセンティブが薄れてしまう「モラルハザード」が発生しました。また、証券化が繰り返し重層的に行われた結果、格付け会社や投資家などによるリスクの評価が困難になりました。リスクの分離化がもたらした負の側面が顕在化したのが、2008年のリーマン·ショックです。不動産価格の下落を契機に、信用リスクの高い不動産ローン債権(サブプライムローン)の証券化商品に対する信用不安が高まりました。これを保有していた世界の投資会社などの資金繰り悪化などを経由して、大手銀行や証券会社に対する信用不安へと連鎖しました。さらに金融機関の CDSを販売していた保険会社にもその影響は波及しました。

リーマン·ショックをきっかけとした規制の強化

リスク評価の不完全さから適切なリスク管理が困難であったこと、市場を通じてその影響が世界に伝播したことなどから、リーマン·ショックは「無秩序な金融の自由化」が招いたものといえます。そこで、秩序ある金融の市場化に向けた取り組みが進みました。これは金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)やバーゼル委員会などの国際的な機関による規制強化であり、グローバルな金融機関に対する自己資本比率規制の徹底、自己勘定でのトレーディングやハイリスクな取引引に対する規制の強化、実効的な破たん処理計画の整備デリバティブ市場の透明化がその代表例です。これによりリスク管理が徹底され、グローバルな金融機関を中心に金融機関の健全性は高まりました。

図解:リーマンショック以降強化された国際的な金融規制

反面、金融機関のビジネスモデルは困難に直面しました。規制強化により自己資本の増強が必要になるなど、資金調達コストが引き上がりました。また、ハイリスクな取引への規制強化により、市場取引で大きな収益を得ることも難しくなりました。加えて、各国中央銀行の金融緩和政策による低金利の環境は、債券保有や銀行貸付などによる収益を低下させました。結果的に世界の金融機関のROE (Return On Equity :自己資本利益率)はリーマン·ショック以前の水準を取り戻すに至っていません。日本においては、欧米の金融機関に比べてリーマン·ショックの影響は大きくなかったものの、こうした規制強化の流れや金融緩和政策の影響を受け、同様に収益性が低下し、ビジネスモデルの劣化が懸念されることとなりました。

 

金融の新たな領域~FinTechやSDGs~

現在、金融機関は新しいビジネスモデルを模索している最中といえます。新たなビジネスモデルのキーワードとなるのは、FinTech の活用や、SDGS(Sustainable Development Goals :持続可能な開発目標)に貢献する金融サービスの提供などが挙げられます。FinTech は、金融とテクノロジーとの融合を意味します。金融機関はテクノロジーの活用をすることによってさまざまなコストを抑制し、さらにはデジタルネイティブな若年層の顧客ニーズを満たすことで収益性を高めたいと考えています。他方で、テクノロジーに優位性のあるFAANG(Facebook、Amazon、Apple、Netflix、Google)といったプラットフォーマー(多様なITサービスを一元的に提供する業者)の金融業参入も見込まれています、れにより、既存の金融機関を取り巻く競争環境は激化する可能性があります。SDGS とは2015年に国連で採択された持続可能な社会の実現に向けた世界的な動きを指します。これは、たとえば環境問題や貧困·飢餓の撲滅、ダイバーシティの実現など、世界的な課題を重視する活動です。企業は経済的価値だけではなく、これらの課題解決に資するような社会的価値を追求することで持続的成長が達成できると考えられています。SDGS は2000年代初頭の途上国向けに想定されたミレニアム開発目標を源流とするものです。リーマン·ショックを契機に既存の金融ビジネスモデルが変化を迫られたように、従来の経済的価値の重視という経済成長モデルも変化しつつあるのかもしれません。こうした経済成長モデルの変化に対応する金融サービスの提供が、金融機関には求められているといえます。

 

 

フィンテックカテゴリの最新記事