<はじめに>エクイティ調達した会社は、逃れられない”株主との関係構築”
大企業からベンチャー企業を含む中小企業まで、株式での資金調達を行った会社が避けて通れないのが株主との関係構築ですが、そもそも株主であるとどんなことができて、それはどのように実現されるのでしょうか。
以下では株主の権利とその行使方法について見ていきたいと思います。
そもそも株主の権利ってなに?
株主は株式会社の社員として会社に対してさまざまな権利をもちます。株主権は、法律で規定されることが多いのですが、定款の規定により認められるものもあります。
株主権は一般に自益権と共益権、単独株主権と少数株主権と言うように分類されています。
株主が権利を行使してきた場合、株主名簿を確認し、株式等振替制度を利用している株主にっいては、権利の行使ごとに証券保管振替機構に通知することが必要です。
自益権と共益権
自益権とは、株主が会社から経済的利益を受けることを目的とする権利です。剩余金配当請求権や残余財産分配請求権、株式買取請求権などがあります。
共益権とは、株主が会社の経営に参加することを目的とする権利です。
株主総会の議決権が代表的ですが、取締役などの違法行為に対する差止請求権などの監督是正権もあります。
単独株主権と少数株主権
単独株主権とは、1株しか持たない株主でも行使できる権利のことです。
少数株主権とは、総株主の議決権のー定割合以上またはー定数以上の株式を持つ株主だけが行使できる権利のことです。なお、自益権とー部の共益権は単独株主権です。
共益権の中には、少数株主権とされているものもあります少数株主権の例としては、総会の招集を請求する権利である株主総会招集請求権の他、会社の会計帳簿や書類の閭覧·謄写を請求する権利である帳簿閲覧請求権、取締役等の解任請求権などがあります。

少数株主権·単独株主権の行使要件の基準
たとえば、株主総会の招集請求権は、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続きもっている株主が行使できるとされています。なお、非公開会社の場合は6か月の保有期間は不要です。
また、株主総会の議案の要領を株主に通知することを請求できる権利は、取締役会設置会社では、総株主の議決権の100分の1以上の議決権または300個以上の議決権を6か月前から引き続き持っている株主が行使できるとされています。非公開会社の場合は、6か月の保有期間は不要です。
単独株主権の行使要件については、株式の保有期間が定められている場合もあります。たとえば、取締役の違法行為の差止講求権は6か月前から引き続き株式をもっている株主が行使できるものとされています。もっとも、非公開会社ではこの6か月という保有期間は不要で、単に株主であれば足ります。
議決権とは何か
株主が、株主としての意思を株主総会で示すことができる権利を議決権と言います。議決権は、1株につき1つの議決権を有するのが原則とされています。
たとえば株主総会に100名出席した場合に、各株主が1株ずつ保有していれば議決権の経数は100となります。また、そのうち20名が5株ずつ持っていた場合には、議決権の総数は180となります。
ただ、単元株制度の下では、1単元に満たない株式(単元洙満株式と言う)を持つ株主には議決権が与えられません。
また定款でー定の事項を除いて議決権がないとされている株式(議決権制限株式)についても、議決権がないとされている事項の議決権は認められません。
他にも、自己株式については、議決権が与えられていません。また、自社の議決権の4分の1以上を持っている会社の株式を有していたとしてもその株式には議決権が認められません(このような株式を相互保有株式と言います)。
なお、会社は、基準日を定めてその基準日に株式を保有していた者(基準日株主)が議決権を行使することができると定めることができます。また、基準日株主を害さない限り、その基準日後に株式を取得した株主の議決権行使を認めることもできます。

どのように行使するのか
株主が議決権を行使する場は原則として株主総会です。株主総会の当日に都合がつかない場合、その株主は会社の基本的な方針や重要事項の決定の場に参加したいにもかかわらず参加できず、不便に感じるかもしれません。
また、株主が1000人を超えるような会社が株主総会を開催する場合、1000人を超える株主全員がその開催日に都合がつくことはほとんどないと考えるのが現実的でしょう。
株主の利益を優先して考える会社であることを自負している会社であれば、こうした可能性に配慮して、株主が議決権を行使できるように柔軟な運用をする必要があると言えます。
実際、会社法は、議決権を持っている株主が1000人以上いる株式会社に対して、原則として書面による議決権の行使(書面投票制度)を認めるように義務付けています。このように、柔軟な運用方法としては、株主総会の当日に出席できない株主が書面や電磁的方法(メールなど)によって議決権を行使できるようにすることが考えられます。
議決権行使の方法にもいろいろある
書面や電磁的方法によって株主が議決権を行使する場合、株主は総会に出席せずに議決権を行使する、ということについてよく考えておかなければなりません。
書面による議決権の行使
例えば、総会に出席すると議決権を行使する際に判断材料となる書類などが配布されます。しかし、総会に出席せずに議決権を行使する場合には意思決定をする材料が手元に何もないことになります。
こうした点に配慮して、会社法は招集通知を送るときには、株主が十分考えて投票できるように、判断の材料となる資科を添付しなけければならない、と定めています。
この資料を株主総会参考書類と言います。また、議決権を行使する際に使用する書面(議決権行使書面)も送付しなければなりません。
電磁的方法による議決権の行使
電磁的方法による議決権の行使をする場合には、株主が議決権を行使する際の判断材料として株主総会参考書類の交付に代えて、株主総会参考書類に記載しなければならない事項を電磁的方法(メールなど)で知らせればよいとされています。
ただし、株主が株主総会参考書類を送付するように請求した場合には、これに応じなければなりません。
委任状勧誘という方法
議決権を持っている株主の数が1000人を超える会社で、かつ金融商品取引法に基づいて所定の形式に則れば、書面投票に代えて委任状勧誘という方法をとることもできます。
委任状勧誘とは株主自身に総会ヘの出席をうながすのではなく、代理人を選んでもらい、その代理人が株主に代わって議決権を行使するという方法です。
委任状勧誘の場合は議決権行使書面ではなく、委任状用紙を交付し、代理権の授与について参考となる事項を記載した書類(参考書類)も送るようにします。
代理人による行使
株主総会に株主が出席せずに議決権を行使する方法としては、この他に、株主が自分の代わりに議決権を行使する代理人を立ててその代理人が議決権を行使する方法があります。

書面投票制度導入の義務付け
株主が書面によって議決権を行使する方法を書面投票と言います。議決権を有する株主が1000人以上いる会社は、書面投票制度を導入しなければなりません。
また、書面投票制度の導人を義務付けられていない会社であっても、書面投票制度を導入することができます。
導入するには、取締役会設置会社の場合には取締役会で決定しなければなりません。一方、取締役会非設置会社の場合には、取締役の決定で導入できます。
書面投票制度を導入した会社は招集通知に書面によっても議決権の行使ができることを記載しなければなりせん。
招集通知を電子メールなどの電磁的方法で行うことを承諾している株主に対しては、招集通知に添付しなければならない議決権行使書面を送付しなくても、議決権行使書面に記載しなければならない事項を電磁的方法で知らせればよいとされています。
ただし、株主が議決権行使書面を送付するように請求した場合にはこれに応じなければなりません。
書面投票による議決権の行使期間
前項で述ベた書面投票によって議決権を行使できるようにしたとしても、行使できる期間を定めておかなければ、混乱が生じます。
期間の定め方としては、株主総会開催日の直前の営業時間の終了時まで受け付ける方法か、あるー定の期間中に投票を受け付ける方法があります。いずれの方法をとった場合でも、株主総会の当日より前の期間でなければなりません。
一定の期間中に投票を受け付ける場合には、その投票の終了日が招集通知を発送した日から2週間経過した日以後でなければなりません。
議決権を行使できる期間を過ぎてしまった場合には、株主には株主総会に実際に足を運んでもらうより他ありません。
会社は株主のための開かれた株主総会をめざして、株主が最大限権利を行使できるようにすべきです。
そのためには、招集通知を出す時に、書面投票の場合には、議決権を行使できる期間が設けられていること、その期間を過ぎてしまうと書面による投票を行うことができなくなることを明記しておくようにしましょう。
電子投票とは
会社は、株主総会の議決権の行使について、メールなどの電磁的方法によって行うことができる旨を定めることができます。
電磁的方法によって議決権を行使する方法を電子投票と言います。電子投票の場合も、書面投票と同様に、株主総会前に株主が議決権を行使することになります。
取締役会設置会社の場合は、取締役会で決定した場合に電子投票制度を導人できます。一方、取締役会非設置会社の場合には、取締役の決定で導入を決めることができます。
電子投票制度の導入は書面投票制度の導入とは異なって、1000人以上の株主がいる会社であっても必ず導入しなければならない、ということはありません。
また、書面投票制度の導入をしている会社がさらに電子投票制度を導入してもよいことになっています。また、書面投票制度を導入していない会社が電子投票制度だけを導入することもできます。
電子投票による議決権行使の方法
電子投票の場合に利用する電磁的方法としては、電子メールを利用する方法やCD-ROMなどの電子媒体を交付して行う方法などが考えられます。
ただ、会社が運用する方法として適切で実際に多くの会社が採用している方法はインターネット上に投票に必要な情報を開示する方法です。なお、もっと厳重に本人確認を行いたい場合には電子署名や電子認証制度を導入するとよいでしょう。
議決権の行使期間については、書面投票の場合と同様、株主総会開催日の直前の営業時間の終了時まで受け付ける方法か、あるー定の期間中に限って受け付ける方法があります。

書面投票と電子投票が重複して行使された場合
会社が株主の議決権の行使方法について定める場合、書面投票と電子投票のどちらかしか採用できない、ということはありません。
書面投票と電子投票のいずれの方法でも議決権を行使できる、と定めることもできます。その場合、株主はどちらかの方法を選んで議決権を行使するか、株主総会に出席するかを選ぶことができます。
中には行使期間中に何度も電子投票をする人や書面投票をしたにも関わらず電子投票も行ってしまう人も出てきます。特にインターネツトを介して電子投票を行う際には、投票するためにボタンをクリツクしたところ、反応がないように見えたために何度も押してしまった、といったことも考えられます。
また、電子投票をしたことを忘れて書面投票をしてしまうこともあり得ます。こうした状況に備えて、会社としては、具体的な状況を例示してその取扱いについてあらかじめ定めておく必要があります。
そして、招集通知を出す際には、投票が重複した場合の取扱いについて定めた内容を記載しなければなりません。
議決権の重複行使が生じた場合には、具体的には、次のような方法をとることが考えられます。
①:書面投票と電子投票があった場合、いずれかの方法による投票を有効と扱い、他方の方法による投票を無効とする方法
②:①の場合に有効とする方法による投票が複数あった場合にはその最初(または最後)の投票を有効とし、他の投票を無効とする方法
③:書面投票と電子投票があった場合、どちらの方法によるかに関わらず最初(または最後)の投票を有効とし、他の投票を無効とする方法
④重複して投票がなされた場合にはすべての投票を無効とする方法
また、複数の議決権を保有している株主の中には、その名義人以外の人の株式を預かっている場合やその株式を共有している場合など、名義人とは別に議決権を有する人がいる場合も少なくありません。
このような場合、議案についてその人々が同じ意思を持っているとは限りません。賛否が分かれる場合もあり得ます。
こうした場合、それぞれ異なる意思を表明することができます。ただ、複数の株式を保有する株主が本当はー人しかいない場合は、賛成と反対に投じることはできません。このような場合には、会社は不統一行使を拒否することができます。

決議の種類
株主総会において各株主は、原則としてー株につき、1個の議決権をもっています(一株一議決権の原則)。
株主が総会に出席して議決権を行使するのが原則ですが、前述したように、①代理人によって議決権を行使する方法や、②議決権行使書面に必要な事項を記載して会社に提出する方法、③電子メールによって議決権を行使する方法もできます。
また、他人のために株式を預かっていて株主が2個以上の議決権をもっているようなケースでは、一部で反対しー部で賛成すると言うように、議決権を統ーしないで行使することもできます(議決権の不統一行使)。
株主総会での決議は多数決の原則で決められます。決議には、次の3種類があります。
①普通決議
その株主総会で議決権を行使できる株式の過半数分を満たす株主が出席した上で、出席した株主がもつ議決権数の過半数で決議を行うことです。法律や定款で決議方法が定められていない事項について決議する場合には、普通決議によるのが原則です。具体的には、役員の選任決議などがあります。
なお、普通決議は「議決権を行使できる株式の過半数分を満たす株主」が出席することが要件ですが(この要件を定足数と言う)、定款で定めれば、この定足数を排除することができます。つまり、出席した株主の議決権の数の過半数で決議することが可能になります。
ただ、役員の選任決議などの場合において、議決権を行使することのできる株主の3分の1未満での定足数での決議はできません。
②特別決議
議決権を行使できる株主の議決権の過半数をもつ株主が出席し、その議決権の3分の2以上で決議するものです。株主の重要な利益に関わる事項については、この特別決議によることが必要とされています。
取締役会設置会社の株主総会において特別決議が必要となる決議事項としては、たとえば、資本金の額の減少、定款の変更、現物配当などがあります。
③特殊決議
特別決議よりも決議のための要件が重くなっている場合です。たとえば、全部の株式の内容について株式譲渡に会社の承認を要する旨の定款の定めを設ける定款変更をする場合は、議決権を行使できる株主の半数以上で、かつ当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
また、非公開会社が剩余金配当·残余財産分配·株主総会の議決権につき株主ごとに異なる取扱いをする旨を定款で定める場合には、「総株主との半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上」の賛成が必要になります。