<はじめに>株主総会ではどのような資料が必要とされるのか
株主総会では様々な事務作業や資料の作成が求められますが、起業して期間の短い経営者やまだ経験の浅い財務担当者は戸惑うことも多々あるのではないでしょうか。
そこで、今回は①に続く、株主総会で求められる資料について解説します。
【計算書類】
どんなものがあるのか
貸借対照表·損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表を計算書類と言います。計算書類の金額は1円単位、千円単位、あるいは百万円単位で表示します。
会社は、こうした計算書類と共に事業報告、附属明細書を作成し、会社の財政状態や経営成績を株主に開示しなければなりません。
事業報告は、会社の状況を数値で表す計算書類とは異なって、会社の事業の状況を文章で説明したもので、書類を作成する際のもととなる情報も会計帳簿だけに限りません。
なお附属明細書は、計算書類と事業報告の記載内容を補足するもので、重要な事項の明細を記入した書類です。

ある時点での財産状況を表すのが貸借対照表
貸借対照表は、損益計算書や株主資本等変動計算書とは異なって、あるー定の時点での数値を表すものです。定時株主総会では事業年度末(当期末)の財政状態を記載した貸借対照表を株主に開示します。
貸借対照表には、資産、負債、純資産という区分があります。
資産·負債·純資産は真ん中から右と左に分かれて表記されます。左側を借方と言い、資産を記載します。一方、右側を貸方と言い、負債と純資産を記載します。
資産はさらに細かく、流動資産、固定資産、繰延資産に分けて書き記します。負債は流動負債、固定負債に分けて記載します。純資産は、株主資本、評価換算差額等、新株予約権に分けて記載します。
なお、貸借対照表は英語でバランス·シートと呼ばれており、「B/S」と略すこともあります。
会社の経営成績を明らかにするのが損益計算書
損益計算書はー定期間の数値を示すもので、当期の会社の経営成績を時間軸で見比べることができます。
このため、その事業年度の損益がどうなっているか、またその原因はどこにあるのかを把握するのに適しています。
損益計算書に記載する事項は、売上高、売上原価、販管費・一般管理費、営業外収益、営業外費用、特別利益、特別損失の7つの項目に分けて計上することになっています。
これらの項目から、売上総利益あるいは売上総損失の金額、営業利益あるいは営業損失の金額、経常利益あるいは経常損失の金額が算出されます。そして、最終的に算出される税引前当期純利益(純損失)の金額、当期純利益(純損失)によって,当期の会社の経営成績が明らかにされます。
このように、損益計算書は会社の経営成績を利益と損失によって表現します。利益と損失をそれぞれ英語で「Profit」「Loss」と言うことから、損益計算書のことを略して「P/L」と言うこともあります。

株主資本等変動計算書とは
株主資本等変動計算書は、その事業年度中の会社の純資産の部の数値の変動を明らかにするものです。
会社は株主ヘの剰余金の配当を行う時期を自由に決めることができます。しかし、その事業年度中の株主資本がどのように変化したのかを株主に明らかにしなければ、株主側では会社の剩余金の配当状況について妥当なものだったかどうかを把握することができません。
このため、株主資本等変動計算書によって事業年度中の株主資本の額の変動を明らかにすることは、株主にとって重要な事項となっています。
株主資本等変動計算書に記載する数値は、株主資本、評価換算差額等、新株予約権という項目に分けます。
株主資本の項目は、さらに資本金、新株式申込証拠金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式、自己株式申込証拠金の項目に分けて数値を記載します。
こうした区分のうち、資本金、資本剩余金、利益剰余金、自己株式に関する項目については、当期首残高、当期変動額、当期末残高を明示しなければなりません。
また、評価換算差額等(その他有価証券評価差額金、繰越ヘッジ損益、土地再評価差額金など)、新株予約権に関する項目については、当期首残高、当期変動額、当期末残高を明示しなければなりません。
個別注記表とは
今まで説明してきた貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計面書によって明らかになった会社の経営成績や財政状態に関する数値データを株主が判断するために必要な事項に関して文章で説明した書類を個別注記表と言います。
非公開会社は原則として、重要な会計方針に関する事項、株式資本等変動計算書、その他の事項についての説明をつけなければなりません。
附属明細書とは
附属明細書は、計算書類や事業報告に記載された事項について補足する必要がある重要な項目についての明細を記載した文書です。
附属明細書が補足する事項の対象となる書類は、計算書類だけでなく事業報告も含まれますので、作成するときには、それぞれに分けて記載する必要があります。
計算書類を補足する附属明細書には、貸借対照表·損益計算書·株主資本等変動計算書·個別注記表に記載された重要事項について補足する内容を記載するだけでなく、有形固定資産、無形固定資産、引当金、販売費、一般管理費の明細を記載しなければなりません。また、個別注記表に記載する事項のうち、関連当事者との取引に関する注記について注記せずに省略した会社は、その省略した内容の明細を附属明細書に記入しなければなりません。
一方、事業報告を補足する明細書には、事業報告の内容を補足する重要な内容を記載します。
計算書類の作成から監査、承認までの流れ
会社は、事業年度ごとに計算書類を作成しますが、この計算書類はただ作成すればよいというものではありません。その事業年度の計算書類を作成し、株主にその書類を提出しますが、提出する前に監査役の監査を経なければなりません(監査役、監査役会を設置している会社の場合)。また、会計監査人を設置している会社の場合には、作成した計算書類について、監査役と会計監査人の監査を受けなければなりません。
監査を受けなければならないのは、定時株主総会に向けて作成される計算書類だけではありません。臨時決算日を設けて作成される臨時計算書類や連結計算書類の場合も同様です。
監査役の監査を受けた後は、取締役会設置会社の場合には取締役会の承認を経なければなりません。
このように順番としては、計算書類の作成、監査役による監査、取締役会による承認の後に株主総会に提出し、株主総会の承認を得る、といった流れになります。
これは計算書類だけでなく、計算書類の内容を補足した附属明細書もこれと同じように作成·監査·承認と言う過程を経ることになります。
作成した計算書類とその附属明細書は、作成した時点から10年聞、保存しておかなければなりません。また、計算書類は電磁的記録で作成することもできます。
監査役や会計監査人の監査
監査とは、計算書類やその附属明細密の内容が適正なものであるかを監査役が確認することを言います。
会計監査人も設置している会社の場合には、監査役と会計監査人が計算書類とその附属明細書の内容を確認します。
-会計監査人を設置していない会社の場合
監査役を置いていて会計監査人を置いていない会社の場合、監査役は監査報告を作成する必要があります。この監査報告には、監査の方法と内容を記載します。さらに「計算書類がその会社の財産と損益の状況をすべての重要な点において適正に表示しているかどうか」ということについての監査役の意見も記載します。
また、監査のために必要な調査を実施できなかった場合には、調査を実施できなかったこととその理由も記載します。追記情報がある場合には追記情報を記載の上、監査報告を作成した日時を記載します。
-会計監査人を設置している会社の場合
会計監査人を設置している会社の場合、会計監査人は、監査の方法と内容、計算関係書類がその会社の財産と損益の状況をすベての重要な点において適正に表示しているかどうかについての意見とその理由を会計監査報告に記載します。
意見がないときは、その旨とその理由を記入します。追記情報がある場合には追記情報を記載の上、会計監査報告を作成した日時を記載します。
会計監査人を設置している会社の監査役は、監査報告に監査の方法と内容、監査報告を作成した日時を記載します。そして、監査役が会計監査人の監査の方法·結果が相当ではないと判断した場合、監査役はその旨と理由を監査報告に記載しなければなりません。
また、重要な後発事象(決算日後に生じた事象で次期以降の財政状態や経営成績に影響を及ぼす会計上の事象のこと)がある場合にはその事象を記載します。
会計監査人が職務を適正に遂行するために確保すべき体制についても記載します。監査のために必要な調査を実施できなかった場合には、実施できなかったこととその理由も記載します。また場合によっては追記情報も記入します。
株主総会での承認
取締役会設置会社の場合、監査役や会計監査人による監査を受けた計算書類は、取締役会に提出され、取締役会の承認を得てから定時株主総会に提出されます。
定時株主総会では、「第◯号議案第◯◯期計算書類承認の件」といった形で決議事項としてとりあげられ、提出された計算警類について承認するかどうかの決議が行われます。
定時株主総会での決議の結果、計算書類が承認されればその事業年度の計算書類が確定したことになります。
なお、臨時計算書類を作成した場合も株主総会の承認が必要です。これは、臨時計算書類に基づいて株主に剰余金を配当することが認められているため、そのもととなる計算書類について、株主の判断が必要だと考えられているからです。
株主総会で承認された計算書類は、株主総会終結後、すぐに公告することが必要です。一方、会計監査人を設置している会社の場合、取締役が計算書類の内容を定時株主総会に報告するだけで、承認を得なくてもよい場合もあります。
具体的には、会計監査人と監査役が監査した計算書類を取締役会が承認していて、監査報告の内容として会計監査人の監査の方法、結果を相当でないと認める意見がないなど、その計算書類が法令と定款に従って会社の財産·損益の状況を正しく表示していると認めることができる場合です。
この場合、計算書類の株主総会ヘの提出·承認の手続きを省略することができます。

【事業報告】
事業報告とは何か
会社の財政状態や経営成績に関する会計情報を扱う計算書類とは異なって、事業報告は、会社の事業の状況を文章で説明した書類です。
定時株主総会で事業報告を株主に提供する際には、事業報告に記載した内容を補足する附属明細書も提出します。
事業報告には、その会社の状況に関する重要な事項、内部統制システムなどに関する事項を記載します。
事業報告も計算書類と同じように、作成、監査(監査役を置いている会社の場合は監査役によって行われる)、承認(取締役会設置会社の場合には取締役会によって行われる)を受ける必要があります。
そしてその後、「取締役が株主総会にその内容を報告する」という流れになります。
どのような目的で作られるのか
会社は、定時株主総会のために事業報告を株主に提供するだけでなく、その定時株主総会において、提出した事業報告の内容を報告しなければなりません。この報告は取締役が行います。
このように、事業報告を株主に提供したり取締役が内容を報告するのは、株主が株主総会で議決権を行使する際に重要な判断基準となる情報を説明する必要があるからです。
したがって、事業報告は株主の判断に役立つように、わかりやすい内容で書く必要があります。できれば、図表などを使って株主が内容を把握しやすいように工夫しましよう。
説明の際のポイント
事業報告を作成する会社側は日々扱っている内容であることから、つい専門用語や業界用語を何の説明もなく使ってしまいがちです。
しかし、株主は毎日その業界で仕事をしているわけではありません。突然何の説明もなく専門用語や業界用語を使われても理解するのは難しいでしょう。
こうした用語を多用されると、結局何が書かれているのか、どんな内容を報告しているのか、はっきりと把握できなくなってしまいます。
事業報告を作成する場合には、株主に余計な負担を与えないように、専門用語·業界用語を多用するのはやめましょう。
どうしても使わなければならない場合には、平易な言葉で説明文を加えるなどの工夫が必要です。
株主総会では取締役が事業報告の説明をすることになります。その際も、株主が内容をよく把握できることを優先して話すようにしましょう。
IR活動に力を入れている会社であれば、事業報告の内容を説明する際にビデオを使ったりカラーで作成した資科を用いて説明するなど、株主の視点に立ってわかりやすい説明となるように心がけるようにしましょう。