<はじめに>なぜ株式事務が大事なのか
株式事務と聞くと専門性が高くて煩雑そうなイメージを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。しかし株式事務は株式会社にとって非常に重要な役割を果たします。
今回はそんな縁の下の力持ちとも言える、「株式事務」について解説していきたいと思います。
株式事務とはどんな仕事なのか
株式実務とは、株式に関するあらゆる事務を指します。具体的には、以下のように非常に多岐にわたっています。
⑴定款や株式取扱規則(日常業務)
⑵取締役会規則(日常業務)
⑶取締役会の議事録の作成·整備·保管(日常業務)
⑷株主名簿の管理(日常業務)
⑸株式の譲渡関連の事務や手続き(日常業務)
⑹決算及び配当に関連する事務や手続き(特別時業務)
⑺株主総会の関連事務や手続き(特別時業務)
⑻自社株の取扱いに関する事務や手続き(特別時業務)
⑼増資及び新株発行の事務や手続き(特別時業務)
(10)企業再編に関係する事務や手続き(日常業務)
(11)従業員持ち株会に関する事務や手続き(日常業務)
(12)ストックオプションに関する事務や手続き(日常業務)
(13)投資家向け広報(IR)及び株主向け広報(SR)(日常業務)
そこで、把握しやすいように日常的に起こる日常莱務と特別な事態が生じた場合に行う業務の2種類に分けて考えることもあります。
⑴〜⑸、(10)〜(13)が日常業務、⑹〜⑼が特別な事態が生じた場合に行う業務とおおまかに分けることも可能です。
一般的には日常業務は⑷、⑸が、特別な事態が生じた場合に行う業務は⑺、⑻がそれぞれの忙しさのビークとなります。すべての株式事務には、厳しさの度合いに違いがあるものの、法律によって規制があり、それに則った事務を逐行しなければなりません。
上場会社と未上場会社ではどのように違うのか
上場会社と未上場会社とでは、株式事務も内容が変わります。上場企業の場合は、株式事務のほとんどを証券代行会社や信託銀行、証券会社に任せ、自社内では⑴、⑷、⑸事務のー部と、(11)の業務を行うだけになっています。
特に証券保管振替機構(ほふり)がスタートしてからは、自社内で行う事務の範囲はさらに狭くなっています。また上場企業では株主名簿管理人を置くことが求められています。会社法上は誰置が義務付けられているわけではありませんが、上場にあたっては株主名簿管理人を置くように求められます。おもな委託先は証券代行会社(だいこう証券ビジネス、日本証券代行、東京証券代行)と大手の信託銀行です。
上場企業はこれら代行業者に事務を委託しています。このようにすることで、株式事務の煩雜な作業のほとんどを代行先に任せることができます。社内で行うのは、取締役会の議事録策定、決算書類の作成及び関連業務、株主総会の議事録策定、株主総会での決議内容の株主ヘの通知、情報公開(IR、SR)及びその関連業務程度に限定されます。
また,上場企業の場合、株主名簿の書換えに関する業務も証券保管振替機構が行うため、会社の株式事務も非常に軽減されました。したがって、上場企業の場合、株式事務の専門部隊が独立して設置されている例はありません。社内で必要な株式事務を担う担当者が総務や経理などのセクシヨンの中に分かれて存在しているというのが実態です。
一方、未上場企業の場合は、株式事務を自社内で行うのが普通です。外部に委託するほどの仕事量がないということもあるのですが、通常業務以外の業務が発生した場合などは非常に忙しくなることもあります。
しかし、未上場といえども、株式事務は上場企業と同じように行わなければならないことになっています。日常行う事務はあまり大変ではないかもしれませんが、新しいプロジエクトの進行といった事情により、新株発行やストツクオプション、従業員持ち株会の事務や手続作業があることも考えられます。コストを考慮して代行業者に任せることも考える必要が出てくるケースもあります。
さまざまな人と関係する仕事
株式事務は、企業に関して利害を持った人々全員に対して行う事務とも言えます。企業に対して利害を持った人々のことをステークホルダーと呼ぶこともあります。一般的には、勤務する従業員、株主、取引相手となる消費者(顧客)、企業に対する債権者、企業とかかわる地域住民·地域社会などがステークホルダーにあたると言えるでしよう。
株式事務の担当者はステークホルダーと直接、接する重要な立場にあります。経営の根幹にまで関わるという意味で、単なる事務処理ではなく、高い経営知識と情報管理能力が不可欠になります。
株主ヘの対応
ステークホルダーヘの対応について、特に株主に対してはー番、気を遣わなければなりません。
なんと言っても会社のオーナーだからです。IRやSRなどで株主と直接、接する機会を多く設け、意思の疎通を日頃から怠らないようにすることが大切です。株式市場全体の影響で株価が下がった場合などでも「なぜ、株価が下がったのか」と電話で文句を言ってくる個人株主も多数いますが、多少、理不尽な怒りに対しても懇切丁寧な対応をすることが必要と言えるでしよう。