実務から考えるM&Aスキームについて

  • 2019.01.03
  • M&A
実務から考えるM&Aスキームについて

M&Aには様々なスキームがありますが、そもそもどのような種類があり、またどのように使い分ければいいのでしょうか。今回は「M&Aのスキーム」をテーマに、解説を進めたいと思います。

M&Aスキームの種類

下記の通り、M&Aスキームは多種多様です。今回は対象企業の支配権を獲得するのかという観点を中心に分類しました。

M&A、スキーム

広義のM&Aには資本移動を含まない業務提携、資本移動も含む業務・資本提携、合弁会社の設立などのパターンがあります。一方、狭義のM&Aには,複数の企業を1つの企業にする効果のある合併、株式譲渡の対価を買い手の株式で支払う株式交換、その際に親会社を新たに設立する株式移転,会社のー部を切り出し、新たな会社を設立する株式分割があります。

M&Aは多角化や新規事業進出、海外進出のために使われることが多くなってきましたが、合併のスキームはあまり使われていません。

M&Aの多くは,大企業が自社よりも小さい企業を買収することが多いので、その場合、買い手である大企業のほうが給与を含めた待遇が良いことが多くなります。買収した企業を合併してしまうと、そういった待遇を買い手である大企業に合わせる必要があります。

買い手からするとせっかく低コストでオペレーシヨンできる企業を買収したのにそれでは買収のメリツトが活かせません。このような事情も合併が最近あまり使われない理由の1つでしよう。

合併を含めたこれらのスキームは,大企業同士のM&Aでは使われることが多いのですが、中堅・中小企業同士のM&Aではそれほど使われません。そこでここからは現金を対価とし、中堅・中小企業同士のM&Aでよく使われる株式譲渡、新株引受、事業讓渡、会社分割について説明をしていきます。

株式譲渡

国内のM&Aの多くがこの株式譲渡のスキームを用いています。なお、株式譲渡の対価が現金ではなく、買い手の株式とするパターンを「株式交換」といいます。M&Aでは行政上の許認可や権利を獲得するために買収することも多くあります。その場合、事業譲渡を用いてしまうと許認可や対象企業の持つ権利、契約関係は新たに再取得・再契約となってしまうため、買収の目標を達成することはできません。その場合には株式譲渡を使う必要があります。

M&A、株式譲渡

メリット デメリット
・売り手は取引の結果として、現金を手に入れることができる
・法的な手続きが簡素となる
・事業譲渡に比べて手続きが簡素
・行政上の許認可や取引上の契約などが原則、継承される
・買い手は売り手の法人格をそのまま引き継ぐため、簿外債務を引き継いでしまうおそれがある

ここで注意をしておきたいのが、取引基本契約や賃貸借契約には一般的に株主構成が大幅に変更になった場合には,契約をいったん解除するという項目が含まれている場合が多いことです。

これを「チェンジ・オブ・コントロール条項」といいます。チェンジ・オブ・コントロール条項があるからといって、すべての契約をM&Aで引き継げないということはありません。買い手が大企業で売り手よりも信用度が高い場合には、この条項にかかわらず契約が引き継がれることも多いのです。

この場合の適切な対応はケースバイケースですのでM&Aアドバイザーなどに相談しながら進めて行くべきでしょう。

新株引受

これは対象会社が発行する株式を買い手が引き受けるスキームです。新株引受によって,過半数の議決権を買い手が獲得し、株式譲渡と同様の効果を持ちます。ただし、先に説明したような100%議決権を持つことはできない点に注意が必要です。

M&A、新株引受

また,この場合買い手が支払う対価は売り手ではなく,対象会社に入金されます。対象企業が資金不足でその救済,支援策として採用されるケースを想定するとイメージしやすいでしょう。

この新株引受には,増資前後で株主の出資比率が変化しない株主割当増資と増資前後で株主の出資比率が変化する第三者割当増資があります。株式譲渡とは異なり、対価を受け取るのは会社であるため、オーナー経営者がそのまま経営を続け,そのために必要な資金を外部から受け入れるというイメージを持つと理解しやすいでしょう。

メリット デメリット
・上場企業の場合、取締役会決議で第三者割当株式あるいは新株予約権の発行が可能(特に有利な発行価格でなければ、買収対象企業の既存株主からの同意が得られなくても買収することが可能)。
・発行側(株主兼代表者)が引き続き、会社に留まる場合のインセンティブになる。
・買い手企業は100%支配権を獲得することができない。
・新株発行価格が適正、公正な価格かどうか問題となりやすい。
・一定の保有割合を取得するのに株式譲渡と比較して多額の資金が必要となるケースがある。
・対価を受け取るのは会社であるからオーナー引退には馴染まない。

その他スキーム

M&A、スキーム、事業譲渡、会社分割

事業譲渡

事業譲渡の取引当事者は,対象企業です。株式譲渡の場合の取引当事者が対象会社のオーナー(株主)と買い手であったのに対し、事業譲渡の場合には対象会社、あるいは対象事業と買い手の間の契約になります。

この結果、譲渡の対価はオーナーではなく、対象会社に支払われることになります。事業承継を検討しており,オーナーに譲渡資金が入る必要がある場合には、その先に対象会社からオーナーヘ資金を渡す方法の検討が必要です。

長年ビジネスをしていると,会社ヘのオーナー貸付がある場合が多く、この返済であれば税金はかからずに資金移動が可能です。それも難しい場合には,配当や退職金などで少しでも税金が少なく、オーナーの手取りが多くなるような方法を税理士に相談しつつ進めていけるようにアドバイザーとも相談しながら進めていくのがベターです。

事業譲渡では,一部の事業のみを譲渡の対象とすることが可能です。たとえば会社全体として3事業を運営している企業がそのうち1事業を譲渡することが可能です。株式譲渡の場合は会社全体の譲渡しかできませんので、これは事業譲渡の大きなメリットの1つです。

メリット デメリット
・買い手は必要な資産、負債だけを選択して引き継ぐことができる。
・簿外債務を引き継ぐおそれがない。
・売却代金は対象会社に支払われるため、売り手オーナーは現金を手にすることができない。
・契約更改など譲渡対象資産の引継手続きが煩雑である。
・行政上の許認可や取引上の契約などが継承されない。再契約により個別に引き継ぐ必要がある。

簿外債務とはB/S(貸借対照表)に記載されていない債務のことで、具体的には売り手も認識していなかった残業代の未払などが該当します。株式讓渡の場合、対象会社のすべての権利・義務を引き継ぐことになりますので、万一、譲受後にこのような残業代の未払が生じた場合には対象会社を通じて買い手が負担することになります。

もちろんこれを防ぐためにデューデリジェンス(以下,DD)を実施し、契約書に損害賠償責任などを詳細に記載することによって対応していきます。

事業譲渡の場合、譲渡対象となったものを契約で1つひとつ定義していくため、契約書でリストアツプされるはずのない簿外債務は引き継がれることはありません。したがってデューデリジェンスの負担が非常に軽くなります。

さらに事業譲渡では株主総会の決議が必要であり,1つひとつの契約を引き継がなければならない手続上の煩雜さというデメリットがありますが、中小案件の場合は譲渡対象となる契約数もそれほど多くなく,株主総会の決議も実質上,オーナー経営者の単独での決定か,少人数で満たされることも多く,デメリットよりもメリットが多く,実際には比較的よく利用されるスキームとなります。

会社分割

手続が簡便で契約関係を包括継承できる反面、債務継承や簿外債務などのリスクのある株式譲渡、そして簿外債務などのリスクはないが、手続が煩雑な事業譲渡について述べましたが,両者の中間に位置する手法として会社分割による対象事業の取得という手法を検討する余地もあります。

会社分割は、譲渡対象事業を会社分割により新会社に移転したのち、買い手が新会社の株式を取得することにより、対象事業を取得する形式です。

この方法によるメリットとしては包括継承のため、事業課渡と比べて契約関係の移転手続がシンプルである点、また転籍させる従業員から個別に同意を得る必要がない点などがあります。デメリットとしては,手続に時間がかかることが挙げられます。

また、この方法によった場合でも許認可などが失効しないか、取引先との取引契約に抵触しないかなどの確認は必要です。ただし、法的な手続が株式譲渡や事業譲渡より複雑ですので、弁護士と手続に漏れがないか相談しつつ、進める必要があります。

スキームを検討する際の留意点

①経営権取得(持ち株比率50%超取得)か業務提携重視か

買収目的が,経営権の取得による事業のコントロール(経営陣,経営方針,財務等の支配)の場合には100%取得が望ましく過半数の議決権を獲得する必要があります。

また,経営権取得よりも業務提携が主目的の場合,持ち株比率にこだわる必要はありませんが、より緊張感のある提携にするため、株主総会の特別決議を否決できる持ち株比率1/3超の取得を目指すこともあります。

②買収対象企業の財務状況

対象企業に簿外債務がある可能性がある場合や債務超過の場合、リスクを軽減するため事業譲渡により譲り受ける資産負債の選定を検討します。

③親会社との統合を迅速に行うのか、しばらく対象企業の経営方針を維持するのか

対象会社の経営方針を維持する場合には,株式讓渡,50%超の新株式会社株式交換を利用して統合を慎重に進め(子会社としてコントロール)、組織の統合をスピーディに進める場合には合併または事業譲渡で親会社と対象会社を一体化する方法を検討するとよいでしょう。

④売り手の対価としての希望条件および買い手の資金力

売り手が対価として現金を希望している場合には、株式譲渡が検討対象となります。事業譲渡や新株引受の売買代金の対価は現金ですが、現金を受け取るのは対象会社となるためです。

対価の支払方法が,現金以外でも問題ない場合には株式交換、合併、吸収分割も検討可能です。ただし非上場会社の株式の交付については換金性に問題があるため一般的には採用されないケースが多いことに注意が必要です。

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