バイサイドデューデリジェンスとは

グループ内再編等のケースを除き、通常のM&A取引においては、当事者同士が相手のことを知り尽くしているということはあまりありません。したがって、売却者・対象会社側と買収者の間には「情報の非対称」が存在するため、買収者は対象会社が投資に値する価値を有しているか否かを精査する必要があります。

この精査が「デューデリジェンス(以下、「DD」という)」、「買収監査」です。DDの分析項目は非常に多岐にわたりますが、基本的には「ビジネス面」、「財務·会計税務面」、「法務面」の三分野が中心で、対象会社や買収者の考える対象会社の価値の見方または企業規模等によっては、「人事面」「IT面」「環境面」等の調査を加えます。

DDのー般的な流れとしては、まずDDを実施する範囲(スコープ)を確定し、その後DDチームを組成、DDチームより必要資料のリストや事前QA等を対象会社側に提示し、数日から数週間にわたる資料精査やインタビュー等を行い、調査後にDDチームから顧客(買収者)に報告書が提示されます。顧客(買収者)からの要請があれば、DDチームは株価算定書等も同時期に報告密とー緒に提出されることになります。

場合によっては、「フェアネス・オピニオン」と呼ばれる意見書も株価算定書に添付されることがあります。フェアネス・オピニオンとは、「評価額(合併比率や株式移転比率等を含む)や評価結果に至る会社の経営判断を、独立の第三者が、様々な観点から調査し、その公正性について財務的見地から意見を表明すること」であり、また、それらを記載した書面を意味することもあります。

買収者側デューデリジェンスの目的

買収者が行うDDの目的は、買収者が買収の実施可否判断、買収額の最終決定、対象会社のリスク把握、スキームの検討、買収実行にあたってのボトルネック調査、統合後の戦略策定等多岐にわたります。

具体的には、財務·税務DDでは基本的なビジネスや会計の仕組みに加えて、過去の正常な収益力(過去の業績の特殊要因把握と特殊要因がない場合や買収実行後の収益力)の把握、過去のトレンドに鑑みた将来収益力の分析、金額の大きな勘定科目の精査、資産の含み損益把握による時価純資産の把握、運転資本や設備投資等を含めたキャッシュフロー(以下、FCF」という)の分析、偶発債務(隠れた債務)等の抽出、買収にあたっての当事者の税務にかかる問題点の調査等を行います。

ビジネスDDでは、過去から現在さらには将来にわたる市場環境等の外部環境分析、対象会社の強みや弱み等の内部環境分析、戦略的競合優位性、競合企業分析、事業リスクと課題、KPI抽出、KPI改善、過去のKPIと今後の分析を基にしたプロジェクションの策定、検討等を行います。

当然、ビジネスの定性的な情報が背景となり定量的な数値が生み出されるという関係性から、財務・税務DDとビジネスDDは密接に関係します。したがって、双方の結果を路まえて初めて、より妥当性あるプロジェクシヨンを策定することができます。対象会社側からプロジェクションが出ている場合はそれらを検証していく作業も同時に行います。

法務DDにおいては、定款・謄本等による会社基本情報の把握、真正な株主の把握、大口取引先等の特に重要な相手方との契約の継続性、他社と締結している契約にかかるリスク評価、株主間の契約を調査することによるM&A取引ヘのボトルネック把握、過去の取締役会・株主総会議事録調査、独占禁止法にかかる調査、過去の労務リスク等各種リスクの調査、事業内容に応じた各種法令遵守にかかる調査等を行います。

これにより、現在の会社が法的に有効な形で運営されているのか、会社自体やM&A取引におけるリスクの有無、プロジェクションヘの影響等を把握していきます。これら手続きにより完成したプロジェクションや各種リスクに鑑み、買収者側の経営陣は買収実施の可否判断はもとより、対象会社の評価、契約条件の検討、リスクヘッジ策立案と実施、統合戦略の検討等を行っていきます。

また、買収者側の経営陣にとって、DDの実施は株主等の第三者に対する説明責任を果たすことにっながます。この点においても、特に上場会社やLPを擁する投資ファンドがM&A取引を実施する場合には、外部専門家の活用が重要になります。

デューデリジェンスと企業価値評価

DDと企業価値評価は非常に密接に結びつきます。一般的に買収者は、オンサイトDDを実施する前にプレDDとも呼ばれる予備調査を行うことにより大枠の買収価格を決定し、意向表明書等により条件提示を行います。

DDではこれら条件提示の根拠となった数値の検証を行うことで、本当にその提示額でよかったかを検証します。なお、ビジネスDDについては、プレDDのタイミングで深く実施する場合も多いのですが、ビジネスDDを外部専門家に任せない場合もあります。コストのかかる外部DDチームをアサインする前の段階で、ビジネス的に「価値がある」となって初めて、買収者側としては外部専門家をアサインしてリスクを洗おうというフェーズに入るのです。

もちろん、投資ファンドが買収者となる場合やー定規模以上のM&A案件である場合等においては、コンサルティング会社にビジネスDDを依頼するケースもあります。この場合はオンサイトDDの実施と同時期にビジネスDDも外部委託されるのが通常です。

なお、ケースバイケースではありますが、BSがシンプルな中堅規模以下の企業の場合に特に重要となるDDは「ビジネスDD」です。プロジェクションや価値評価に最も大きな影響を及ぽす場合が多いからです。ビジネスDDは前述のとおり、オンサイトDDに先行して深く実施されることが多く、オンサイトDDにおける財務・会計・税務DDにおいてこれらビジネスDDの結果がー部検証されていきます。

ビジネスDDの結果を基礎として、将来予測PLを含むプロジェクションの策定(すでに実施していれば、DD結果に鑑みて再策定する)が行われます。このプロジェクションの策定は、外部専門家が実施するケースもあれば、買収者の経営企画部等の部門が中心となって作成されるケースもあります。DDの結果、プロジェクションや純資産額に修正の必要があると判断されれば、最終的な企業価値評価額に影響を及ぽす場合もあります。

デューデリジェンスにおける調査項目

ビジネスデューデリジェンス

ビジネスの検証には事業内容、ビジネスの内容、製品やサービスの特徴、販売方法の特徴、対象とする顧客層、価格帯など様々なものが含まれます。また、これらの生産、販売体制を維持するための営業体制、生産・販売拠点、人事制度や報酬体系にも及びます。

技術や知的財産権に関する評価も重要で、その内容や有効期限、持続可能性などをまとめておく必要があります。

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財務デューデリジェンス

買収対象資産が適正に会計処理されており、帳簿残高は妥当なものであるか、現時点の換金可能資産と負債とのバランスやキャッシュフローの観点から検討する必要があります。

また不良資産、滞留資産の有無や不動産、投融資などの時価評価も重要です。将来のパフォーマンス評価として、収益性と投資金額に対する回収の効率性の面から評価も行われます。

分析 調査内容
実態純資産分析 ・会計基準の適用状況、会計方針の変更の有無

・不良債権、滞留債権の評価

・不良在庫、滞留在庫の評価

・固定資産の償却状況(償却不足の有無等)・不動産の時価評価

・投融資やのれんの評価

・遊休資産の評価

・繰延税金資産の回収可能性

・各種引当金の計上の有無

・簿外債務、偶発債務、後発事象の調査等

正常収益力分析 ・売上高分析(事業別、部門別、製品別、地域別、顧客別等)

・売上原価分析(事業別、部門別、製品別、仕入先別、外注先別等)

・費用分析(固定費・変動費分解、本社費用の配賦方法、人件費分析等)

・営業外損益、特別損益の内容、発生原因等の確認

・スタンド·アローン·イシューの把握(全社共通サービス、グループ会社との取引、ブランドや顧客情報に係る問題等)等

キャッシュフロー分析 ·運転資本分析

·年次、月次キャッシュフロー分析

·資本的支出(設備投資等)分析等

法務デューデリジェンス

会社組織、株主、関係会社、資産、知的財産、ファイナンス、契約関係、人事問題、許認可、紛争・訴訟等の分野を対象として調査を実施します。

・M&A実行の障害となる法律上の問題点の把握
・ターゲット企業の価値評価に影響を与える法律上の問題点の把握
・M&A後の事業計画等に影響を与える、またはM&A後に改善するべき法律上の問題点の把握
・経営判断に影響を及ぼし得るその他の法律上の問題点の把握

ターゲット企業が遵守を要請される様々な法律について、現時点で定植している問題がないかを十分に調査しておく必要があり、会社法や税法だけでなく、様々な商取引にかかる法律や事業所の立地、環境にかかる事項、労働者との関係にかかる事項など、項目は非常に多岐にわたります。

主な項目 調査内容
設立、会社組織 ・ターゲット企業が適法かつ有効に設立されて,現時点も有効に存続していることを確認

・会社機関およびその運営が,会社法および定款その他の社内規則等に従っていることを確認

・M&A実行にあたって,会社法および定款その他の社内規則等の下で必要となる具体的な手続を確認

株主、関係会社、M&A ・子会社·関連会社等の関係会社の全貌を把握

・株主間または関係会社間取引およびこれに関連する法律上の問題点の把握

・ターゲット企業またはその関係会社を当事者とするM&A取引に関連する法律上の問題点の把握

資産 ・資産をどのような目的で保有または使用しているかを把握

・営業目的で使用している資産の継続使用を不可能にする事由の有無の確認

・営業目的以外の理由で保有している資産の概要および法律関係の把握

・資産の保全状況を確認

・M&A実行が資産に関する法律関係に及ほす影響を確認

知的財産 ・ターゲット企業が保有している知的財産権の権利関係,契約関係等の確認

・知的財産権の侵害に関するリスクの検討

・知的財産権の管理状況·管理体制の確認

ファイナンス ・資金調達の概要(方法,調達期間,金利等の調達条件)の把握

・ターゲット企業のキャッシュフロー不足を招く法律上のリスクの有無の確認

・提供されている担保および保証等の内容の確認

・M&A実行後にファイナンス·ストラクチャーを変更する場合の問題点の把握

契約 ・M&A実行後に事業継続の障害となる契約がないかを確認

・ターゲット企業が不当な義務を負っている契約がないかを確認

・違法な内容の契約がないかを確認

・ターゲット企業が簿外負債を負っている契約がないかを確認

人事 ・M&A実行後に事業継続に必要な人員を確保できるかを確認

・M&A実行後に合理的な雇用条件での雇用ができるかを確認

・簿外となっている労働債務がないかを確認

訴訟・紛争 ・M&A実行の障害となる係争中または潜在的な訴訟·紛争の有無を確認

・過去に起きた訴訟·紛争の傾向および今後,類似の訴訟·紛争が発生するリスクの有無の確認

・訴訟·紛争にまでは発展していない顧客などの第三者からのクレームの有無、内容等の確認