M&Aにおいて、買収者はどうやってその価格を決定するのか

  • 2019.01.28
  • M&A
M&Aにおいて、買収者はどうやってその価格を決定するのか

買収者は何を以って価格の妥当性を見いだすのか

極端な例で言えば、買収者側の資産規模が大きく、意思決定構造が単純であり、かつ買収者側のニーズに対象会社の事業が一致すれば、赤字の会社であっても百億円以上の価値が付きます。原則的に、買収者はそのM&Aによって「将来どの程度のキャッシュフローを生むか」という点を過去から現在の状況をべースに検討したうえで買収価格を決定します。

もちろん、こういった予測をきちんとモデル化せず、ざっくりした計算で評価される場合もありますが、教科書的に言えば買収者は以下のステップで買収価格を検討します。

①事業計画を検討したうえでDCF法や類似会社比較法等の企業価値評価手法により、対象会社単独の現在価値を算出する。
②シナジー等の現在価値を算出して①の価値に加算し、競合上の論点、買収者側の会計・税務上の論点、財務状況等に鑑み、必要に応じてさらに価値を加減調整する。
③ ②の価値から買収に伴うFA費用等の諸経費を控除する(=最大買収可能価額)。
④ ③の最大買収可能価額から買収者側の価値創造部分を控除して最終的な買収価格を決定する。

一般的な「企業価値」の評価は①の手続きを指しますが、買収者にとっての「買収できる最大の価額(=最大買収可能価額)」は、対象会社単独の現在価値にシナジーの現在価値を加算した価値を基準に必要に応じた調整をかけ、さらに諸経費を控除して算定します。そこから④の調整を行うことで、買収者側の価値創造部分を確保したうえで最終的に売却者側ヘ提示する買収価格が決定されるといえるでしょう。

なお、②の「競合上の論点」とは、対象会社を買収者の競合企業に買収されてしまった場合の評価を意味します。競合会社が対象会社を買収し、当該買収により競合会社の競合優位性が強化されてしまうと将来的には買収者自身の事業に大きな悪影響を与える場合があります。

この場合の悪影響の程度を価値評価(防御価値の評価)することがあります。同じく固の「会計・税務上の論点」としては、代表的なものに「のれん償却」等のトピックスがあります。買収にあたって買収者側に多額の「のれん」が計上されると、買収者側の連結損益計算書上で「のれん償却」費用が発生します。

通常、過半数超の買収を実施して対象会社を連結子会社にすれば、買収者の連結営業利益は対象会社の営業利益の分だけ増
加します。しかし、「のれん償却」が対象会社の営業利益より大きけれぱ、「のれん償却」は販売管理費に計上されるため、その差額分だけ買収者側の連結営業利益が買収前と比ベて低下してしまうことになるのです。

この点を気にする買収者は非常に多いといえます。「財務状況」というのは、まさに買収者側の資金繰りや借入れを用いた場合の財務的問題点などの検討などが挙げられます。

最後に、④の「買収者側の価値創造部分」についてです。買収者は最大買収可能価額すべてを実際の買収価格とすることはできません。なぜなら、最大買収可能価額は当該買収により買収者が実際に得ることのできる価値であり、その全額を支払ってしまっては当該買収により買収者側の価値創造が図れないからです。

このようなプロセスを経て、買収者は最終的な買収価格を決定していくことになりますが、買収者側内部での算定過程は通常、売却者側には開示されません。買収者としては安く買収できればそれに越したことはないので、売却者とのコミュニケーションの中では、シナジー価値については算定に含めずに評価しようとする場合があります。

しかし、優良な対象会社であれば、「他の買収者」という競合が現れます。こうなると買収者側も①の価値、つまり対象会社本来の価値のみを算定根拠としていては買収競争に勝てない場合もあります。

そこで、魅力的な企業を対象とする多くの場合で、シナジー価値を含めた評価を前提に買収価格が決定されています。したがって、シナジー価値の算定は売却者にとっても、買収者にとっても重要なトピックになると言えるでしょう。

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