<はじめに>経営実態の可視化こそが企業戦略の土台となる
企業が公表している貸借対照表や損益計算書の数値は企業の期末日の財政状態や1年間の企業活動の成果をあらわしているものです。財務諸表には企業に関する様々な情報が散りばめられており、あらゆるステークホルダーに意義のある情報を提供します。
一方でそれらの財務情報を正確に読み取るためには一定の分析指標を用いて、様々な数値から読み取る必要があります。こうした財務諸表の数値を用いて、企業の状況を理解したり、問題点の把握を行うことが「財務分析」です。
分析を行う上で相対的な評価を行うために比較対象が必要になりますが、財務分析に用いられる一般的な比較方法は以下の3種類です。
①比較期間
期間比較とは分析した企業の陶器の指標を前期以前の指標と比較する方法です。最低でも2期間を比較することになり、企業の業績の傾向を把握したり、企業の業績の予測に活用されたりします。
②企業間比較
企業間比較とは分析したい企業の指標を同業他社や業界平均の指標と比較する方法です。企業間比較にあたっては、利益構造が類似する同業他社や業界平均値との比較によって、有意義な分析となります。ただし、会計方針の全く異なる企業同士を比較しても有意義な分析にはならないので注意が必要です。
③目標値比較
目標値比較とは分析したい企業の指標を目的値と比較する方法です。特に安全性分析で用いられますが、この目標値は企業の規模や業種によっては、必ずしも重要とはならないという点に注意が必要です。
今回は数多くある財務指標の中でも、特にベンチャー企業に有効な財務指標に絞って紹介したいと思います。
主要な財務分析指標
分析名称 |
算定式 |
説明 |
自己資本比率 |
総資産÷純資産 |
安定性指標:総資産に占める自己資本の比率を算定 |
流動比率 |
流動資産÷流動負債 |
安定性指標:流動資産と流動負債のバランス関係を算定 |
当座比率 |
当座資産÷流動負債 |
安定性指標:当座資産と流動負債のバランス関係を算定 |
固定比率 |
固定資産÷自己資本 |
安定性指標:固定資産と自己資本のバランス関係を算定 |
自己資本当期純利益率 |
当期純利益÷自己資本 |
収益性指標:自己資本における当期純利益の比率を算定 |
売上高営業利益率 |
営業利益÷売上高 |
収益性指標:売上高における営業利益の比率を算定 |
売上高経常利益率 |
経常利益÷売上高 |
収益性指標:売上高における経常利益の比率を算定 |
売上債権回転率 |
(受取手形+売掛金)÷売上高 |
効率性指標:借入調達資金の活用効率を算定 |
棚卸資産回転率 |
棚卸資産÷売上高 |
効率性指標:在庫の活用効率を算定 |
売上高人件費比率 |
人件費÷売上高 |
効率性指標:人材の活用効率を算定 |
増収率 |
(売上高÷前期の売上高-1) |
成長性指標:売上の成長性を算定 |
増益率 |
(経常利益÷前期の経常利益-1) |
成長性指標:経常利益の成長性を算定 |
①安定性分析
安定性分析とは企業の財務構造や資金繰りの健全性を検討するため、企業の債務の返済能力を分析するものです。どんなに収益性の高い企業でも、獲得した利益に関連する売上債権等を回収して、資金化しなければ仕入債務等を決済し、賃金や金利、配当などを支払うことができません。資金化できなければ債務不履行に陥り、倒産してしまうことがあります(これを黒字倒産といいます)。以下では主な安定性分析指標を紹介します。
分析名称 |
算定式 |
説明 |
自己資本比率 |
総資産÷純資産 |
安定性指標:総資産に占める自己資本の比率を算定 |
流動比率 |
流動資産÷流動負債 |
安定性指標:流動資産と流動負債のバランス関係を算定 |
当座比率 |
当座資産÷流動負債 |
安定性指標:当座資産と流動負債のバランス関係を算定 |
固定比率 |
固定資産÷自己資本 |
安定性指標:固定資産と自己資本のバランス関係を算定 |
①-1:自己資本比率
算定式:自己資本比率(%)=自己資本÷総資本×100(≧50%)
自己資本比率は企業が使用できる総資本のうち、自己資本の占める割合をあらわす指標であり、企業財務の安全性を示す最も基本的な指標であるといえます。
自己資本は株主が拠出した資本であり、原則として返済する必要がなく一定率の利息を支払う必要もありません。一方、他人資本は貸借対照表の貸方の負債の部の総称です。他人資本はいずれは返済する必要があり、一定率の利息を支払う必要があるものも含まれます。そのため、自己資本は他人資本に比べて安定的な資本といえることから自己資本による資金調達の割合が高いほど、「長期的な」財務の安定性が高い企業であると言われます。
自己資本比率は50%を上回っていることが安定性の目安と言われています。
①-2:流動比率
算定式:流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100(≧200%)
流動比率は短期的(1年間より短い)に支払いを要する流動負債に対して、その支払い手段となる短期的な流動資産を保有しているかをあらわしています。この比率は大きいほど、企業の「短期的な」債務返済能力が高いことを示しています。一般的には200%を上回っていることがが安定性の目安とされており、少なくとも100%を超えていることが重要であると言われています。
①-3:当座比率
算定式:当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100(≧100%)
当座比率は、流動資産のうち資産を処分することなく、支払いに充てられる資産である当座資産の流動負債に対する倍率をあらわし、流動比率よりも厳格に企業の「短期的な」債務返済能力を示すといわれています。
例えば、流動さ真のほとんどが短期に販売不能な棚卸資産であるならば、その企業の安定性は低いといわざるを得ません。そこで、流動比率の補助指標として、換金性の極めて高い資産を用いた短期的な債務返済能力を示す指標として当座比率が用いられるのです。
ここで、当座資産は⑴現金預金、⑵売上債権、⑶一時所有の有価証券、⑷短期貸付金などの合計から貸倒引当金を除いて計算します。一般的には100%を超えていることが安定性の目安とされています。
流動比率と当座比率に大きな差がある例としては不動産業界が挙げられます。不動産業界に属する企業では取引用の土地などを棚卸資産(販売用不動産や仕掛不動産)に計上しているため、流動比率では支払能力が高く見えてしまう傾向がありますが、より厳格な安定性分析のためには当座比率を用いる必要があります。
①-4:固定比率
算定式:固定比率(%)=固定資産÷自己資本×100(≦100%)
固定資産とは自己資本に対する固定資産の比率をあらわす指標です。固定資産は現金化するのに1年超の時間がかかる(長期的な)長期債権や有価証券等の資産や通常の営業循環の中で現金化されていない工場の設備や土地などの資産ですので、資金の回収には長期間を要し、また確実に回収できる保証もありません。そのため、固定資産への投資はなるべく返済の必要のない自己資本によって賄われるべきといわれています。
固定比率は低ければ、低いほど、安定性が高い企業ということになり、目安としては100%以下が望ましいとされています。
②収益性分析
収益性分析とは企業がどの程度の利益を獲得したのか、すなわち利益獲得能力を分析するものです。企業は社会に対し、財貨やサービスを提供し、利益を獲得することで発展し、存続することができます。
企業は利益を獲得することを目的に、企業は資本を調達し、それを基に設備を取得したり人材を雇用することで資本を運用します。その意味で「資本と利益」の関係を分析することが重要となります。また売上高に対して、製造原価や仕入高などが課題になっていては利益は計上されません。そこで「売上と利益」の関係を分析をすることも重要です。
「資本と利益」「売上と利益」の関係から企業の収益力を判断することとなります。
分析名称 |
算定式 |
説明 |
自己資本当期純利益率 |
当期純利益÷自己資本 |
収益性指標:自己資本における当期純利益の比率を算定 |
売上高営業利益率 |
営業利益÷売上高 |
収益性指標:売上高における営業利益の比率を算定 |
売上高経常利益率 |
経常利益÷売上高 |
収益性指標:売上高における経常利益の比率を算定 |
②-1:自己資本当期純利益率(ROE)
算定式:自己資本当期純利益率(%)=当期純利益÷自己資本×100
自己資本当期純利益率は自己の投資した資本からどれだけの利益が得られるか、株主の立場から収益性の分析を可能にしています。株主がどれくらいの配当を受け取ることができるかを示しており、特に上場企業の場合は投資家が注目しています。
一方で、総資本経常利益率(ROA)という指標もあります。これは企業のあらゆるリソース(総資本)からどれだけの(特別損益や業種、企業規模によって左右される法人税等の影響を排除した)経常利益が得られるかの分析を行い、企業間比較をより正確に行うことを可能にします。こちらも併せて覚えておくといいでしょう。
②-2:売上高営業利益率
算定式:売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
売上高営業利益率は売上高に対する営業利益の比率です。売上総利益から販売費及び一般管理費を控除した営業利益を使用している点から、販売・管理に関する活動を含めた営業活動の収益力を示す指標です。
②-3:売上高経常利益率
算定式:売上高経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100
売上高経常利益率は売上高に対する経常利益の比率です。分子に用いる経常理絵kには営業利益に経常的に生じる本業以外の付随的な活動である財務活動による受取利息や受取配当金、支払利息などが含まれており、また企業の経常的な活動以外から生じる特別利益、特別損失の影響を排除しているため、企業の実力、すなわち正常収益力を示す指標です。
③効率性分析
効率性分析とは企業のリソースとなる投下資本(資産・負債)をどの程度、効率的に活用して、売上高や営業利益を作り出しているかを分析するものです。
資本回転率、資本回転期間、資本利益率などの指標があり、小さいリソースで大きな利益を生む事業の効率性は高く、大きなリソースで小さな利益しか生まない事業の効率性は低いと評価します。
分析名称 |
算定式 |
説明 |
売上債権回転率 |
(受取手形+売掛金)÷売上高 |
効率性指標:借入調達資金の活用効率を算定 |
棚卸資産回転率 |
棚卸資産÷売上高 |
効率性指標:棚卸資産の活用効率を算定 |
売上高人件費比率 |
人件費÷売上高 |
効率性指標:人材の活用効率を算定 |
③-1:売上債権回転率
算定式:売上債権回転率(%)=売上債権÷売上高
売上債権回転率とは売上債権の回収にどの程度要しているか、どの程度売上債権が未回収であるかを分析するために用いられます。
③-2:棚卸資産回転率
算定式:棚卸資産回転率(%)=売上債権÷売上高
棚卸資産回転率とは企業の棚卸資産残高が売上高に対してどの程度であるか、棚卸資産が滞留していないかを分析するために用いられます。
③-3:売上高人件費比率
算定式:売上高人件費率(%)=人件費÷売上高
売上高人件費率とは、企業の売上高に対してどの程度、人件費が発生しているかを分析するために用いられます。
④成長性分析
成長性分析とは、財務数値がどれだけ変化しているかを分析することで企業の成長性を分析するものです。成長性分析は過去の財務数値からその企業がどれだけ成長したかを把握し、将来見込まれる成長を予測するために用いられます。
分析名称 |
算定式 |
説明 |
増収率 |
(当期売上高-前期売上高)÷前期の売上高 |
成長性指標:売上の成長性を算定 |
増益率 |
(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益 |
成長性指標:経常利益の成長性を算定 |
④-1:増収率(売上高成長率)
算定式:増収率(%)=(当期売上高-前期売上高)÷前期の売上高
増収率は売上高の成長率を示すものです。ポイントとなるのは企業がおかれている業界の平均値と比較を行うことです。分析対象の企業が売上高成長率が一定の値であっても、分析対象の企業だけではなく同業他社も同様に成長している場合はその業種全体として好調であるということ示しているということが考えられます。
④-2:増益率(経常利益成長率)
算定式:増収率(%)=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益
増益率は経常利益の成長率を示すものです。
キャッシュフロー分析
企業はどれだけ赤字を出していても資金が残されている限り倒産することはありません。
逆に利益が計上されていても、キャッシュが途切れてしまうと企業の存続が難しくなり、最悪の場合には黒字倒産となってしまう可能性もあります。そのような事態を防ぐためには、キャッシュ・フロー分析によって企業の資金の流れを把握しておく必要があります。
キャッシュフローは⑴営業キャッシュフロー、⑵投資キャッシュフロー、⑶財務キャッシュフローに分類されます。以下ではその組み合わせによって8パターンに分類して、分析の仕方を紹介します。

バランスシート分析
バランスシートのステータスに応じて、企業の財務状態の分類を行うことが可能です。以下に具体的な対応策も併せて紹介します。

財務分析を基にしたB/S、P/Lの改善例

いかがでしたでしょうか。健全な企業運営を行う上で、特に有用な財務分析指標を紹介しましたがこうした経営分析はIRの観点でも非常に重要な位置を占めます。
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