<はじめに>自社の事業を客観的にみてみよう
事業活動を進める上で、多くの壁にぶつかることがあります。大手企業の競合参入や商品・サービスの陳腐化、景気や社会情勢など外部環境の大幅な変化による業績への影響などはその最たる例と言えるでしょう。
経営者こうした事態にどのような備え、どのように対処していくべきでしょうか。
今回は「企業が継続的に事業をアップデートし続け、繁栄していくための自社分析」フォーマットについてご紹介したいと思います。
課題のカテゴライズ
まずは会社が抱える課題をカテゴライズすることから始めよう〜「原因指向型」、「目標指向型」のどちらの課題か〜
会社の課題を大別すると「原因指向型」と「目標指向型」の2つに分類できます。それぞれに課題を特定するアプローチが異なるので、それを理解して、効果と効率を上げましょう。
「原因指向型」とは、あるべき姿との現状の姿にギャップが生じ、好ましくない状況を生み出した原因を過去から現在にかけて探るため「ロジカルツリー分析」「因果関係分析」などを使用して、問題の根、つまり解くべき課題を設定します。
一方で「目標指向型」では、設定した目標と現状とのギャップを埋めるために、未来に向けた環境分析と自社分析を実行し、課題設定します。上位職になるに従って目標指向型の課題設定と、それヘの対応を求められるようになります。
組織の最上位職の重要な役割の1つは、「ありたい姿」からのギャップを「創る」ことで自ら課題を設定し、次にそれを実現するために、いくつかにステップや部門ごとに分けて「あるべき姿」として良い課題を「探す」ことで設定します。
「発生·復元的問題」「探索的問題」「創造的問題」を区別する
「原因指向型課題設定」は発生・復元的問題を解決するためのものであり、「目標指向型課題設定」は探索的問題や創造的問題を解決するための課題設定のスタイルです。
発生·復元的問題の場合よりも、探索的問題、創造的問題と上位になるにつれて「Why(理念·使命からの動機)」は重要度が増し、全社的な巻き込みのためのコミュニケーションの重要度が大きくなります。
また発生·復元的問題の場合は、「How(具体的な実行方針)」がより重要視され、局地的なコミュニケーションの重要度が大きくなります。

<原因志向型分析>ロジックツリー分析と因果関係分析
ロジックツリー分析で問題の発生要因を「漏れなく」分析する
現状レベルの不具合や不達成があった場合、既に生じている状態とあるべき姿までのギャップを見て復元するための問題が「発生・復元的問題」です。これを解決するためになすべきことは、原因指向型の課題設定です。
原因指向型の課題設定の方法は、「Why-So?(それはどうして?)」とギャップが起きた原因を現在から過去に遡り何度も深掘りして「見る」ことです。「Why-So?」の形のロジツクツリー分析で問題の根、つまり課題を特定します。漏れなくダプりなく原因の可能性を分解し、重要性や緊急性の観点から課題を特定して、その原因を解消する打ち手に繋げます。原因指向型の課題設定は、現場改善などの場面でも頻繁に採用されるアプローチです。
ロジックツリー分析の補完として、因果関係分析を行う
現在の事業状況をロジックツリー分析でスクリーンショットのように静的に分解しても、項目間に相互依存性があったり、経過時間によって結果が変化するような状況では、根本原因を特定することが困難な場合があります。
その場合は因果関係分析で課題を特定しましょう。因果関係分析は単に事象をMECEに分解するだけではなく、時間の経過、相互依存、フィードバックなどの「ダイナミズム」を織り込んでいる分析手法です。
モデルケースとして、ある企業の「利益率の低下」という問題の原因をロジックツリー分析したものを、下記に示しています。
主な原因はロジックツリー上の売上不振を生じきせている「予定より新製品売上不振」、「値引き、安売り」の2つでした。更にそれらの原因であった「新製品の乱発」と「シェア向上の指令」は、相互に関係が深いものでした。
市場シェアの向上を望むことは当然とされ、課題は「ヒット商品を生めない商品企画部、マーケティング部の能力不足をどうすぺきか?」とされていました。ところが因果関係分析で原因の相互依存や時間経過フィードバックの関係を見ていくと、別の真因が見えました。
数年前に上届部の売上至上主義の発想から「シェア向上の指令」が出され、1年目は売上とシェアが向上しました。点線で示すようにシェア向上のための「値引き、安売り」が、→「売上増加」に繋がり、加えて、「新製品の乱発」が→「売上増加」のループを生んだのです。
しかしながら2年目以降は、更に高い売上目標設定がなされ、「値引き、安売り」の頻発で→「ブランドイメージ低下」が起こり→「予定より新製品売上不振」が生じました。これに加え、更なる「新製品の乱発」によって→営業が「限られた時間で不十分な商談」しかできず、→それが「不十分な店頭展開」つまり十分に売り場に商品が陳列されず→「予定より新製品売上不振」に陥りました。
これらの悪いフィードバックが重なり、→「在庫·廃棄費用増加」してすべての因果関係の結果として「利益率の低下」に繋がり、再度「シェア向上」指令が出ました。半期で売上目標を割り込み、通期目標を達成するために後期に追加製品を泥縄式でつぎ込むことになり、実に年聞で320もの新製品が出されました。
結果として営業は毎月平均で30個弱の新製品の商談を抱え、1時聞の商談では商品ごとの特長説明も十分にできませんでした。そうした結果、在庫の減損、廃棄費用は売上の約2%という異常事態まで来ていたのでした。主原因は行き過ぎた「シェア向上の指令」でした。このような分析が因果関係分析です。なお、この企業はトップマネジメントが変わり、利益重視のポリシーに転換して新商品を絞り込み、売上高営業利益率は大幅に改善しました。

<目標志向型分析>6C分析、クロスSWOT分析、5Force分析
課題設定にはもう1つ、目標指向型があります。細かく分けるとその中には、トップマネジメントなどが未来像(Vision)としてありたい姿から目を「創造的」に「創る」課題設定と、トップマネジメントが設定したありたい姿をブレークダウンして、自部門でのあるべき姿として戦略上のストレッチ目標を「探索的」に「探す」課題設定とが存在します。
6C分析を使ってマクロ環境の変化と自社、競合、顧客を有機的に結びつける
目標指向型の課題設定の場合には将来に向けて事業構造の変化や、自社の強み、弱みなどを分析して未来志向の課題設定をすることになります。通常ではマクロな経営環境の要素であるPEST分析と3C分析というフレームワークが使われることも多いでしよう。
PESTとは規制、税制、法律、政策などの「政治環境要因」の分析(Politics)、株価、為替、景気、金利などの「経済環境要因」の分析(Economics)、人口動態、社会風俗変化、治安の変化などの「社会環境要因」の分析(Social)、技術動向、普及度合い、特許などの「技術環境要因」の分析(Technology)です。これらから経営環境に大きな影響を与丸る要素を抽出し、経営ヘのインパクトを想定します。
また、3C分析とは、顧客(Customer)セグメントのニーズを把握し、その市場を狙って競合(Competitor)に打ち勝っために、自社(Company)の対競合での強み、弱みを分析するものです。
PESTと3C、この2つの分析は別々に論じられ、マクロ環境の変化が3C分析の結果として「事業」にどのようなインパクトをもたらすかという問いに有機的に結び付けられていない場合が多く、その欠点を克服するため、PEST分析と3C分析の融合を行うのが6C分析です。
3Cに加えて、分析の対象となる3要素は以下のものです。
·統制者(Controller)
PEST分析(政治、経済、社会、技術)に世論やマスコミの動向、社会公共のインフラ(交通、通信、ネルギー、医療など)変化の調査を加えて、その動向が将来に向けて顧客ニーズに大きな変化を促す、事業の推進力(ビジネスドライバー)を特定します。
·流通チャネル(Channel)
商品を売るために間接販売をしている場合にはチャネルの構造変化の分析が必要です。チャネルの寡占化が顧客の購買動向を変えるためです。
·協業者(Collaborator)
自社で事業の主要機能をすべて賄わずに協業したりアウトソースをしたり、戦略的な提携をする際の事業パートナーです。たとえば、特殊な原材料の独占的な提供者、製造請負企業、コンサルティング会社や、弁護士事務所、金融機関、広告代理店など事業推進のために専門的なサービスを提供してくれる事業者も戦略上重要です。たとえばPCのインテルCPUのように、顧客ニーズを喚起した協業者のブランドがあれば、チップの新製品発売ごとに自社としてのPCメーカーの事業が影響を受けます。
顧客以外のすべてのCが顧客ニーズの変化を促す可能性があり、その場合はビジネス·ドライバーと言えます。6C分析は事業環境全体を俯瞰して「ビジネスドライバー」の大きさを見極め、未来の変化ヘの対応策を案出する場合に有効です。自己のビジネスの特殊性に応じ、特に頭文字「C」にこだわる必要はないので、その業界で重要なプレーヤーを付け加えて事業環境分析をします。

クロスSWOT分析で経営全般の課題を抽出する
6C分析で得た知見を活用し、未来を見据えたクロスSWOT分析をして課題を抽出しましょう。6C分析の中から自社(Company)を除いた経営の外部環境、5Cの要素の中で特にピジネス·ドライバーとなりそうな要素を、自社事業ヘの好機(Oppotunity)と脅威(Threats)として見極め、横軸に配置します。
縦軸はクライアント企業を競合と比較して、強み(Strength)、弱み(Weakness)を分析します。その後に各々の要素をクロス(掛け合わせ)することで新たな意味合いを抽出し、経営やマーケティング上の、「未来に向けた課題」をあぶりだすのがクロスSWOT分析です。通常は以下のようになります。
「S x O 積極的攻勢」
戦略はまず自社の強みに立脚することが王道なので、この項目が課題設定の中心です。
「W x O 弱点補強·段階的施策」
自社に強みがない場合でも、強い競合が存在しないなら、そのチャンスを活かすためにW x Oで未来に向け自助努力による弱点補強をするか、提携や買収などでー気に強みに転換する課題も考えられます。
「S x T 逆発想、差別化」
強みを活用して脅威を打ち消す発想です。競合対比でその脅威を上手くかわすことができれぱ差別化に繋げる課題設定です。
「W x T 防衛、同盟、買収または撤退」
同盟や提携、買収の可能性も模索すべきですが、緊急度やインパクトが高い脅威に自社の弱点を掛け合わせた戦略的な意味合いが最悪の想定になる場合は、傷を浅くしつつ、いかに撤退するかが課題です。
経営資源が潤沢であればすベてに対応できるでしょうが、通常は限られた資源を効率、効果を勘案して振り分けることになります。ここから課題解決時の経済的インパクト、緊急性、実現時期、経営理念の合致度合いなどの判断軸を選択して、本当に解くベき課題の優先順位付けをするのです。
通常は企業が重視する経営指標上のリターンが高いものを課題として選択しますが、仮にクライアント企業が経営上の危機に直面しているならば、経営インパクトよりも実現スピードを重視するべき場合があります。緊急事態に直面している組織は自信を失っていたり、上層部の決断に対して疑心暗鬼になっていたりして、時間を掛けて大物狙いをしている余裕がないのです。経営的なリターンボ低くても短期に成果が出るSmall Quick Winという発想で、負担の少ない施策に取り組みます。
それによって「我々も集中して挑戦すれば、成功できる!」という組織としての小さな勝利体験を優先し、このアプローチを周知徹底します。その後に本格的な改革ヘの弾みを付けて、より大きな課題が選択できるようになります。

5Force分析で業界内のポジショニングを定義する
業界の収益性を決める5つの競争要因から、業界の構造分析をおこなう手法です。「新規参入業者の脅威」「代替品の脅威」の2つの外的要因と「供給企業の交渉力」「買い手の交渉力」「競合関係」という3つの内的要因の計5つの要因から業界全体の魅力度を測ります。
(外的要因)新規参入業者の脅威とは
参入障壁の存在、製品差別化の価値、ブランドエクイティ、切替コスト、必要資本(サンクコスト)、流通経路、絶対的コスト優位性、学習の優位性、既存業者からの報復、行政の方針などが挙げられます。
(外的要因)代替品の脅威とは
代替品への買い手の性向、代替品の相対的プライスパフォーマンス、買い手の切替コスト、製品の差別化への認知度などが挙げられます。
(内的要因)買い手の交渉力とは
買い手の集中比率、交渉手段、既存代替品の有効性、買い手のボリューム、買い手の情報力、相対的な切り替えコスト、総合購買価格などが挙げられます。
(内的要因)供給企業の交渉力とは
供給企業の相対的な切替コスト、供給品の差別化の程度、代替供給品の存在、供給企業の集中比率、販売価格に対する供給価格、供給企業におけるボリュームの重要性などが挙げられます。
(内的要因)競合関係とは
競争企業の数、業界の成長力、一時的な業界の過剰生産力、撤退障壁、競争企業の多様性、情報の複雑性および非対称性、ブランド・エクイティ、付加価値あたりの固定費用、広報費用などが挙げられます。

いかがでしたでしょうか。様々なリスク要因に対処しながら企業が持続可能な繁栄を進めるための経営分析フォーマットをご紹介しました。こうした経営分析はIRの観点でも非常に重要な位置を占めます。
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